『だから私は推しました』から目が離せない理由 “上昇”と“下降”を繰り返す独特な構造を探る

『だから私は推しました』にある不安定さ

 その後の第4話、大型アイドルフェスへの出場をかけた大事な期間に、アルバイトとの両立で多忙を極めたハナはライブ中に卒倒する。これはもしかしたら、瓜田がいれば起こらなかったことかもしれない。推しの辛労に触発された愛は、風俗的な手法でなんとかお金を見繕い、ハナおよびサニサイを“地上の”アイドルフェスに立たせることを成功させる。ここで「光の海」と称される黄色いペンライトに染め上げられた会場はどうしようもなくきれいだけれど、その裏で起こっている現実に光が当たることはない。

 第3話では同僚にアイドルオタであることを勇気をもって告白すると「共依存。カウンセリングとか行ったほうがいいよ」と虐げられてしまい、第5話では人気が出始めて上昇線を辿るはずのグループがメンバー間の喧嘩に足止めをくらう。これらはなにもドラマだからといって過剰に描いているとは思えない。現実に即しながら、この世界では「上昇」あれば「下降」あり、どこまでいっても“不安定感”が追いかけてくる。

 この不安定だけど(だからこそ)目が離せないという本作の魅力は、動線や舞台を使った演出の役割も大きい。とりわけ、「上昇」と「下降」にも直接つながるものとして、本作に「階段(あるいはエスカレーター)」が頻出するのは最も印象的だ。

 第1話で愛が恐る恐る地下のライブ会場に歩みを進める場面。第3話で同僚から離れ、サニサイがライブをする広場に降りていく場面。第5話で小豆沢(細田善彦)と花梨(松田るか)が互いの心を解放する階段に、「いじめられていた」と言うハナが学校で友達とすれ違う階段、それに重なる、愛と同僚が“すれ違わない”エスカレーター。そのどれもが階段を“下る”シーンであることも見逃せない。要するに、こうした演出は彼女たちが地上を求めて「上昇」しているように見えて、一方では「下降」することを止められないでいることを示唆しているのかもしれない。その無限に上昇・下降を続ける構造はまるで、エッシャーのだまし絵で知られる「ペンローズの階段」のようだ。

 少し飛躍しすぎたかもしれないが、本作の魅力はこの不思議な構造に裏打ちされているように思える。それゆえに、現時点ではどのような結末を迎えるのか、まるで想像がつかない。登場人物たちと一緒にゴールの見えない迷路に迷い込んでしまった私たちには、結末がどうであれ、もう「愛とハナの行く末を見届ける」という選択肢しか残されていないのだ。

■原航平
ライター/編集者。1995年生まれ。映画、ドラマ、演劇などのカルチャーをむさぼり食らう日々。Twitterブログ

■放送情報
よるドラ『だから私は推しました』
NHK総合にて、毎週土曜23:30〜23:59放送(全8回)
出演:桜井ユキ、白石聖、細田善彦、松田るか、笠原秀幸、田中珠里、松川星、天木じゅん、澤部佑、村杉蝉之介ほか
作:森下佳子
音楽:蔡忠浩(bonobos)
制作統括:三鬼一希
プロデューサー:高橋優香子
演出:保坂慶太、姜暎樹、渡邊良雄

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