桜井ユキの「感情の暴発」を見逃すな 連ドラ初主演『だから私は推しました』で見せる力量
というわけで、期待値が最大限に高まる中で、意外だったのは、あの桜井ユキが、最初はSNSで「いいね」をもらうことばかり考え、周囲の空気ばかり読むOLだったこと。
意志がものすごく強そうな大きな眼と、スッと通った鼻筋は、どう見ても気が強そうな美人だが、雰囲気は全く明るくなければ、健全でもない。中にドロドロした闇を抱えつつ、それが薄皮一枚というギリギリの状態で覆われているような危険な雰囲気こそが、桜井ユキの魅力だと思うから。
しかし、そんな「桜井ユキらしくない」普通のOLが、スマホを拾った人物に会うために訪れたライブ会場で殻を破る。歌も踊りも全然ダメで、周りからズレているのに必死についていこうとして、前髪ばかり気にしている内気で暗い印象の地下アイドル・栗本ハナ(白石聖)の姿に、無理をしている自分自身の姿を重ね合わせ、ふいに苛立ちを爆発させる。
そして、周囲がドン引きするのもおかまいなしに、大声で罵詈雑言を叫ぶのだ。それでこそ桜井ユキだ。
しかし、そんなトゲトゲだらけで荒みまくった彼女に勇気を与えたのも、何をやってもダメなのに一生懸命前に進もうとするハナの姿だった。その姿に心を打たれ、高揚感と恍惚感溢れる様子で涙を流す「オタクはじめました」の表情がまた、生々しくて良い。
そこから「ドルオタ」道の学びが始まり、ハナを雁字搦めにする独占欲の強いオタクの危険性に気づき、さらに周りのオタクと協力し合ってハナを守ることに成功する。
しかし、達成感を得たところからが地獄の始まり……というのも、森下佳子節。今後の展開が非常に恐ろしい。
それにしても、桜井ユキには、なぜこんなにも「苛立ち」「怒り」「闇」や「感情の暴発」が似合うのだろう。本作はまさに適役である。