ロック様の筋肉が原動力!? 『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』でも健在の“ピープルズ演技”
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019年)は凄い映画だ。語彙が消滅する類の映画である。本作のストーリーはあってないようなもので、スゲェ強い悪の組織の超人ブリクストン(イドリス・エルバ)に、アメリカ最強の超凄腕捜査官ルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)と、イギリス最強の男デッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)がタッグで戦いを挑む……これ以上の説明は必要ないだろう。そして本作を支えているのが主役3人の肉弾俳優、とりわけロック様ことドウェイン・ジョンソンの存在であることも間違いない。
ドウェイン・ジョンソンは凄い男だ。これまた語彙がないが、本当に凄いとしか言いようがない。若い頃は鬱病に苦しむほどの大きな挫折を経験し、プロレスラーとしても最初は伸び悩んだ。しかし、オレ様炸裂な“ザ・ロック”というキャラを確立するや人気が急上昇。遂にはピープルズ・チャンピオン(みんなの大将)と呼ばれ、これ以上ないほどアメリカン・プロレス的な必殺技“ピープルズ・エルボー”と共に大スターにのし上がる。
やがて『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(2001年)の悪役スコーピオン・キングで銀幕デビューを飾るのだが、悪役なのに人気が出すぎたせいでスピンオフ作『スコーピオン・キング』(2002年)が作られ堂々の主演デビュー。女風呂に突っ込んでWOW!的なテンションの快作に仕上がり、本格的にアクション・スターとして活動を始める。その後は『ウィッチマウンテン/地図から消された山』(2009年)などのSFアドベンチャーや、『妖精ファイター』(2010年)といったコメディ、『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』(2013年)でのクレイジーっぷりなど、順調に役の幅を広めていく。
そんな彼の最大の長所は、自身のマッチョさの自覚だ。「どう見ても強そうなマッチョ野郎がこれをやっていたら面白い」という視点から出演する作品を選び、キャラクターを作っている。それでいて観客が望む「カッコいいドウェイン・ジョンソン」像も演じる姿勢も見事だ。常に観客を楽しませるために演じる。まさに“ピープルズ演技”である。
本作でもそんな“ピープルズ演技”は健在だ(むしろ若干やり過ぎ感があるほど)。ドウェイン・ジョンソンでなければ「納得」できない肉弾アクションが連発する。たとえば当然のようにビルから落ちても無傷だ。このシーンに何の疑問も生じないのは奇跡である。この奇跡が成立したのは、往年の名作『コマンドー』(1985年)で結構な高度の飛行機から落下して特に説明なく無事だったシュワちゃん以来だろう。他にもヘリコプターを腕力で押さえ込むなど、彼以外では成立しないシーンが目白押しだ。また、『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)でもプロレスラー時代の必殺技“ロック・ボトム”をステイサムに食らわせていたが、今回は同じくレスラー時代の名物だった片眉を吊り上げる顔芸を披露してくれる。