『凪のお暇』呪いに囚われているのは黒木華だけじゃない! 高橋一生が抱える“闇”の正体
この慎二という男、「空気は作るもの。読む側に回ったら負けでしょ」と言って捨ててしまえるくらいにソツなく立ち回れてしまう会社の中でもエース的な存在のようだ。ただ同僚の前や客先での彼の顔にはビジネススマイルが貼り付いており、その心には何重ものガードが張られているように見える。おそらく相手が考えていることや相手が求めている“自分のあるべき姿”を瞬時に察知できてしまう慎二は、一分の隙もなく、先回りばかりしていて“本当の自分”が誰かに受け入れてもらえるなんてことははなから諦めている、あるいはそもそも考えたこともなさそうだ。
そんな慎二にとっては、読めない空気を必死に読もうとしてそれでも読み違えて、四苦八苦している不器用な凪は、最後の砦、ある意味救いだったのかもしれない。その場にふさわしい最適解な振る舞いができる慎二からすれば、対極にいる凪は憐れむべき存在でもあり、歯がゆくもあり、ただ一方で尊くもある存在だったのかもしれない。
またそんな凪が自分の前で見せる顔には限りなく嘘偽りがないとわかるからこそ、自分はどこかに置いてきてしまったその明け透けな心の在り様に真っ向からは対峙できず、時に踏みにじるようなことをして、試してしまう側面もあるのではないだろうか。
そんな誰に対しても従属的だった凪が突如として自分の意志で動き始めたものだから、焦り始めたのは慎二の方だ。しかも凪が自分と一緒にいた理由が「パッとしない生活からの脱却の切り札としての結婚」という多少不純な動機があったことを知って、計算高さとは無縁だと思っていた彼女像が少しずつグラつき始める。「おまえは、絶対変われない」と凪に呪文のように囁くのは、空気を作る側に見せかけて実は誰よりも空気を敏感に読み、さらされ続けている自分自身にかけられた呪縛から凪だけが自由に解き放たれることへの苛立ち、許せなさ、寂しさの裏返しのようにも思えてしまう。
とにかくこれまで頑なに生活のルーティーンとして守り貫いてきたストレートヘアーを手放した凪の姿には、まさに「自分を偽るのをやめてありのまま生きていこう」とする決意と覚悟が見てとれる。同一人物とは思えぬその変化感が画面越しに視覚的にも伝わってきて、視聴者としては応援せずにはいられなくなる。
慎二がなぜそこまで凪に執着するのか、また慎二自身が抱えているであろう深い闇、その原体験も気になるところだ。
慎二とは正反対の隣人ゴン(中村倫也)との関係がどう発展していくのか。バラエティに富んだアパートの住人それぞれの事情や、彼らとの関わりが凪にどんな変化をもたらしていくのか、色々と見どころは尽きない。
■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。Twitter:https://twitter.com/Tominokoji
■放送情報
金曜ドラマ『凪のお暇』
TBS系にて、7月19日(金)スタート 毎週金曜22:00~22:54放送
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/