中丸雄一と向井理の異なる仕事観 『わたし、定時で帰ります。』は変わり続ける時代の美徳を描く

『わた定』は変わり続ける時代の美徳を描く 

 もちろん、そうしたモーレツ社員的な働き方のおかげで、日本の経済は大きく成長した。年頃になれば寿退社をして、専業主婦として子どもを産み、育てることが「女の幸せ」と呼ばれた結果、出生率も今より高く保たれていたのも事実。日本社会としては成功と呼ばれるスタイルだったかもしれない。だが、どんなことにもメリットとデメリットがあるように、それぞれの家庭に満たされない思いや、取り戻せない時間があったことも確かなのだ。

 時代は常に流れていく。ちょんまげ姿で日本刀を携えていた時代と、スーツにネクタイ姿が明らかに違うように、さすがに100年、200年と経てば「時代が違う」と認識しやすい。だが10年、20年では、どうだろうか。年齢を重ねれば、10年、20年なんて、ついこの前のような感覚になってしまうし、それまで正しいと思っていたことが、今日から急に「時代はもう変わっています」と言われても、なかなか受け入れるのが難しいのではないだろうか。

 しかし実は、毎日どこかで小さな改革が行われ、時代はある日突然ではなく気づかない速度で変わり続けている。結衣が「残業をしない」と決めて仕事の効率化を図り、その仕事ぶりを見て育った来栖(泉澤祐希)が、定時で帰ることが“当たり前“となるように。そんなふうに働く人が、高く評価されれば、効率的に働くことこそが“美徳“へと変化していく。

 もちろん、そうした一人ひとりの小さな改革が全て正しいとも言えないし、これまでの大きな社会の常識が全て悪とも言い切れない。だからこそ、メリットとデメリットを理解しながら、周りとどんなふうに生きていくのかをチューニングしていくのが人生だ。

 夫の言い分、妻の不満、子どもの想い、上司の当たり前に、部下の新たな視点……それぞれが奏でる本音に不協和音がないかと、注意深く耳を傾けること。お互いの言い分を聞き入れ、見過ごしてきた時代の違いを理解し、それぞれの個性を活かしながら、気持ちよく共鳴できるように、調和していくことこそ本当の働き方改革なのかもしれない。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
火曜ドラマ『わたし、定時で帰ります。』
TBS系にて、毎週火曜22:00~放送
原作:朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』シリーズ(新潮社刊)
出演:吉高由里子、向井理、中丸雄一、柄本時生、泉澤祐希、シシド・カフカ、内田有紀、ユースケ・サンタマリアほか
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
演出:金子文紀、竹村謙太郎
プロデューサー:新井順子、八尾香澄
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/watatei/

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