『トクサツガガガ』は現代のオタク趣味の在り方を反映 歴代ドラマ『電車男』『モテキ』と比較する

『トクサツガガガ』オタク趣味の在り方

オタクの多様性を描いた『トクサツガガガ』

 話を『トクサツガガガ』に戻そう。叶の葛藤が女性オタクとして普遍性のあるものなのか、男性の自分にはわからないところがあり、うまく入りこめなかったのだが、2話以降、叶のほかにもオタク女性が多数登場することで、作品に入りやすくなった。

 本作は、同じオタクといっても様々な考えの人がいるのだということを丁寧に拾っている。それはアイドルオタクであることを隠して働く北代優子(木南晴夏)の葛藤が描かれたことでより明確になる。北代の葛藤と叶との衝突を見て、本作はオタクの多様性を描いた作品なのだと理解した。趣味を公言するオープンオタクもいれば、ひっそりと暮らしたいという隠れオタクもいて、同じオタクでも考え方や悩みは微妙に違うのだ。

 第4話で、特撮オタクの叶と吉田久美(倉科カナ)、アイドルオタクの北代とみやびさん(吉田美佳子)、そして少女向けアニメ「ラブキュート」が好きな任侠さん(竹内まなぶ・カミナリ)の5人がいっしょにカラオケをするシーンは、オタクの多様性をもっとも象徴する豊かな場面である。

 また、任侠さんが「ラブキュート」を好きだというのが象徴的だが、本作の同時代性は、オタクの生きづらさを、ジェンダーの問題として扱っていることにある。叶は男の子向けの戦隊ヒーロー番組を好きな自分を幼い時に母親から否定されたことがトラウマとなっており、叶が母親と対峙する姿がクライマックスとして描かれる。

 男性オタクを主人公にした作品が、異性との恋愛を描くのに対し、『トクサツガガガ』は、男らしさ、女らしさを押し付けてくる日本社会の抑圧をやり過ごしながら、自分らしくいられる居場所探しと多様性の擁護へと向かうのだが、そこで描かれるオタク趣味の在り方は大きく変化している。

 『電車男』や『モテキ』では、虚構の世界に閉じこもり、現実と向き合うことができない男たちの“逃避先”としてオタク趣味が描かれていた。対して、本作におけるオタク趣味は、(家族も含めた)自分たちを抑圧する過酷な社会をやり過ごすための“緊急避難所”である。現実に対するシェルターという意味ではどちらも同じだが、描かれ方は真逆のものとなっている。

 これは、90~00年代よりも、2019年現在の日本社会の現実の方が厳しいことの現れだろう。描写こそコミカルだが、叶たちがオタ活(オタク活動)にいそしむ姿はとても切実に映る。だからこそ多くの視聴者に響いたのだろう。終盤はやや駆け足だったが、オタクの多様性をジェンダーの観点から掘り下げた傑作である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
ドラマ10『トクサツガガガ』
NHK総合にて毎週(金)22:00〜(全7回)、毎週(水)1:30〜再放送
原作:丹羽庭『トクサツガガガ』(小学館)
脚本:田辺茂範
音楽:井筒昭雄
出演:小芝風花、倉科カナ、木南晴夏、森永悠希、本田剛文(BOYS AND MEN)、武田玲奈、内山命(SKE48)、寺田心、竹内まなぶ、松下由樹ほか
演出:末永創、新田真三、小野見知
制作統括:吉永証
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/nagoya/gagaga/
写真提供=NHK

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