菅田将暉“1人”の戦いから“全員”の戦いへ 『3年A組』が2019年に製作された意義

『3年A組』2019年に製作された意義

 毎度息を呑まずにはいられない展開のドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)。今週より、その第2幕が始まる。余命僅かの熱血教師を演じる菅田将暉と、永野芽郁をはじめとする期待の若手俳優たちの熱演と、武藤将吾によるオリジナル脚本、小室直子らによる演出の妙によって、青春ドラマの新たな名作が作られようとしている。

 とはいえ、“新しい”と言ったって、言っていることは昨今のドラマでは珍しいほどド直球。周到な計画を立て、生徒を全員人質にとり学校に立てこもるという至極入り組んだことをしながらも、「結局はぶつかりあうしかないんだろうね、体と体を使って言葉を交わす」という文香(土村芳)の言葉のように、真っ直ぐすぎる言葉を正面からぶつけるのが、菅田演じる教師・柊一颯の面白さだ。まるで、4話までのドラマの冒頭に絶えず登場し、手が飛んだり、決め台詞をしゃべったりと、その回終盤への伏線になっていた特撮番組のヒーローさながら、「残された時間」を腕時計に仕込んだ爆弾の起爆スイッチとして抱え持ち、“悪意にまみれたナイフ”に打ち勝つために、正義の味方は戦うのである。

 一方、体育館でただ様子を窺っていることしかできない、魁皇高校の教師たち。生徒たちを心配しながらも酔っ払い、心配する保護者たちをフォローしているつもりがケンカになってしまう。珍しく「私たち教師にできることってなんだろう」と考え出しても、いつもテレビに出演している“平成最後のカリスマ熱血教師”武智(田辺誠一)がすかさず「肉体美」「プロテイン」と入り込み、茶々を入れる。ここまで何もできない、とことん無力化される教師たちも珍しい。また、熱血教師・柊、元熱血教師の刑事・郡司(椎名桔平)、マスコミによって盛大にデフォルメされたエセ熱血教師・武智と、“熱血教師”だけで3人いる状況も不思議だ。

 それは、誰もが熱血教師になりたくてもなれない現代の教育現場を示しているとも言える。刑事・郡司は、時に体罰も厭わない教師だったが生徒たちに慕われていたと3話で明かされる。それでも彼が教師を辞めることになったのは、集団暴行に遭った生徒の気持ちを汲んで犯罪を憎んだことだけでなく、その前に本人が部下に冗談交じりに語った「ちょっと叩けば体罰教師」のご時勢において熱血教師を続けることへの挫折も大きかったに違いない。

 それこそ同枠前クールの『今日から俺は!!』(日本テレビ系)も、『3年B組金八先生』(TBS系)や『スクール・ウォーズ』(TBS系)のパロディが挿入されていた。現代の学園ドラマにおいて伝説のドラマの熱血教師たちのように生徒と本気で向き合うためには、もはや生徒たちを、SNSを含めたあらゆる外界から無理矢理にでも隔離し、権力に歯向かい、自らの命と引き換えにする覚悟で戦うことしか残されていないのだ。

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