菅田将暉“1人”の戦いから“全員”の戦いへ 『3年A組』が2019年に製作された意義

『3年A組』2019年に製作された意義

 このドラマは映像の中の映像、一方的に「見られている」描写が非常に多い。やたら示されるテレビ番組の映像、テレビ番組をザッピングするかのように繋げられる、中止を余儀なくされたドキュメンタリー映画の素材映像、フェイク動画、文香の証言の記録映像、防犯カメラ。常に誰かに「見られ」続けている窮屈で、偽りだらけの世界もまた、現代を組み込んでいると言える。

 その中心にいるのは、ドラマにおける象徴的存在である、謎の死を遂げたクラスメイト・景山澪奈(上白石萌歌)である。茅野(永野芽郁)と逢沢(萩原利久)はそれぞれのカメラのフレームを通して、クラスメイトたちは嫉妬と羨望混じりの目で、澪奈を見ていた。そして、彼女を失ったクラスメイトたちは、今度は互いを監視し合うようになる。そんな生徒たちを監視している、柊が取り付けた防犯カメラと柊自身の目。さらに外側にいて、中の様子を窺っているマスコミや警察、教師たちの目と、そのさらに外側で彼らの生死をエンターテイメントショーのように楽しんでいるSNSのユーザーたちの目。こういった何層もの「見られる」ことによってこのドラマはできている。


 目に宿った嫉妬ややっかみは時に物事を歪曲させ、憎しみを増幅させ、彼らの想像力を奪う。ありのままの真実であるはずの映像は時に嘘をつき、誰かに都合のいい“真実”に簡単にすり替わる。そういったものから生まれた複数の小さな悪意は増殖し、悪い大人の力を意図せず借りて、1人の少女の命を奪うきっかけを作ってしまった。閉ざされた教室の少年・少女たちの事件は、徐々に外へと繋がり、底知れぬ大人の世界、ネットの海へと延びていく。

 柊は、教室に強固かつ外側から見えない特殊な窓を装着することによって、彼らを閉じ込める檻を作った。だがそれは檻に見せかけた、彼らをそんな世界、人々の目からつかの間守り、匿うための場所だったのではないか。終業式までの10日間は、社会という海に投げ出される直前の彼らに柊が命に変えても与えたかった、つかの間の、命がけの準備期間だった。

 柊が用意した生徒たちを守る場所は、自分たちを脅かすまだ見ぬ敵と対峙し、自分たちの手で真実を知るために動き出そうとする生徒たちのバリケードになっていくのかもしれない。

 「俺」1人の戦いは、遂に、俺たち・私たちの戦いへと変わろうとしている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:菅田将暉、永野芽郁、萩原利久、秋田汐梨、若林薫、佐久本宝、富田望生、片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、上白石萌歌、新條由芽、鈴木仁、古川毅(SUPER★DRAGON)、望月歩、搗宮姫奈、堀田真由、日比美思、森山瑛、三船海斗、今井悠貴、若林時英、今田美桜、飛田光里、大原優乃、神尾楓珠、横田真悠、森七菜、西本銀二郎、福原遥、高尾悠希、箭内夢菜
脚本:武藤将吾
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AX-ON)
演出:小室直子、鈴木勇馬、水野格
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/3A10/

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