『コンフィデンスマンJP』はドラマの映画化における試金石に? “月9→映画化”の成功例を振り返る

“月9→映画化”の歩みを振り返る

 一つはテレビドラマで完結しなかったストーリーを劇場版で完結させるというもの。月9で放送された『信長協奏曲』がこのパターンで、『踊る大捜査線』や『コード・ブルー』の劇場版も、その系譜だと言える。

 もう一つはテレビドラマでは物語は完結しており、ストーリーやキャラクターを使って新しい物語を展開するというもの。『コンフィデンスマンJP』はこちらのパターンだ。福山雅治主演のミステリードラマ『ガリレオ』シリーズの劇場版もこちらの流れだが、中でも名作と名高いのが映画『容疑者Xの献身』。

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 本作では福山雅治たちレギュラー陣は背景に退き、物語の中心にいるのはある事情から殺人事件に巻き込まれる堤真一と松雪泰子が主演を務めている。つまり犯人の視点から物語を見せていく『古畑任三郎』や、その元ネタとなった『刑事コロンボ』のスタイルなのだが、テーマや映像がドラマ版以上に作り込まれており、今作で監督・西谷弘の評価は一気に高まった。こういう作り方ができるのはシリーズものの強みである。

 元々、刑事ドラマやミステリードラマの強みは犯人の視点を通して大きなテーマを扱うことが可能なことで、ロボットアニメでは押井守が監督した『機動警察パトレイバー』の劇場版二作が、似たような展開で高い評価を受けた。つまり、テレビシリーズで培った人間関係や世界観をベースにして監督がやりたいことができるのだ。

 しかしこれはテレビシリーズを見ていない人にとっては、最大の弱点となってしまう。テレビドラマの映画化が、どれだけヒットしてもキワモノ扱いされ、映画批評の対象としてまともに語られないのは、テレビドラマを見ていることを前提とした作りが、ドラマを見ていない観客を拒絶しているからだ。

 それは昨年、邦画興行収入一位を飾った劇場版『コード・ブルー』の語られなさに強く現れている。おそらく、ドラマ版の人間関係や世界観を知らないと、どう見ていいのか理解できないのだろう。成田空港や海ほたるのシーンをみれば、西浦正記監督を中心としたチームが映画的なスペクタクル映像を撮れる逸材なのは明らかだが、そういった方面からの評価は少ない。インディペンデントの低予算映画からスタートしながらヒット作となった『カメラを止めるな!』の語られ方と比べると、『コード・ブルー』の方がカルト作品のように見えてくる。

 これは『スター・ウォーズ』や『アベンジャーズ』といったハリウッド映画にも同様のことが言える。過去作やスピンオフ作品を見ないと面白さが理解できないのでは? と思われている作品はメジャー映画ほど増えているのが、最近の傾向だ。

 その最たるものが、テレビドラマの映画化なのだが、単品でも楽しめる作り(になるだろう)『コンフィデンスマンJP』はどのように受け止められるのか? おそらく、ドラマの映画化における試金石となるのではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『コンフィデンスマンJP』
5月17日(金)全国公開
出演:長澤まさみ、東出昌大、小手伸也、織田梨沙、小日向文世、竹内結子、三浦春馬、江口洋介
監督:田中亮
脚本:古沢良太
音楽:fox capture plan
配給:東宝
制作プロダクション: FILM
製作:フジテレビ・東宝・FNS27社
(c)2019「コンフィデンスマンJP the movie」製作委員会
公式サイト:http://confidenceman-movie.com

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