年末企画:今祥枝の「2018年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 “シーズン2の壁”を越える作品が続出

今祥枝の「2018海外ドラマTOP10」

 コメディーの進化にも目を見張るものがあった。『バリー』の予想外の方向へ進む物語にシュールで奇妙な味わい深さは、どストライクで、『サタデー・ナイト・ライブ』のビル・ヘイダーの才能に脱帽。本作にはヒロ・ムライが2エピソードの監督を務めているが、ムライは『アトランタ』のドナルド・グローヴァーとのコラボレーションでもおなじみで、米テレビ業界には知っておくべきエンタメ業界の才能が集まっていることを痛感させられる。一方で、古きを描いて現代を映し出す良質で善良な『GLOW2』、他者との関わり方、幸せの意味を哲学的かつ知的に問いかけ続ける『グッド・プレイス2』の健やかさは、今の時代に貴重なあたたかい笑いを届けてくれる。とりわけ、誰もが心の不調と孤独を抱えているような現代において、これ以上の優しい物語があるだろうかと思わせる『マニアック』は視覚的な楽しさもさることながら、予想外のストレートなメッセージに泣けて仕方がなかった。これらがすべてコメディーの範疇にあるのだから、その幅の広さに改めて驚かされる。

 シーズン1のさらにナナメ上をいって、もはや現代アートかと言わんばかりの『レギオン2』に説明は野暮というものだろう。視聴者数も少なくアワードを席巻するでもなし。それでもこのシリーズが継続できる理由にこそ、ピークTV時代のテレビの面白さがあるとも言えるのではないか。熱心なファンに支えられた幸せな作品だと思うし、このレベルになると評価は好みの問題としか言えないのは『ツイン・ピークス The Return』に似ているかもしれない。そして変わらず私はリンチが好きだしノア・ホーリー党である。同じく『英国スキャンダル』は全3話を監督したスティーヴン・フリアーズ節が全開で、その作風がめちゃくちゃ好み。ばかばかしくもシニカルなユーモアの中に鋭く人間の心理と社会問題を浮き彫りにする作りは、『FARGO/ファーゴ』、『アメリカン・クライム・ストーリー:O・J・シンプソン事件』に通じるものがある。面白くないわけがない。

 アメリカのテレビ業界では当初、2016年か2017年には作品の供給過剰状態(ピークTV)からバブルが弾け、本数は減少するだろうと予想されていた。だが業界の予測に反して、2018年も”ピーク”の状態を維持し続けている。質はもはやこれ以上望むべくもないレベルに達し、作品数は増える一方。今年は、Facebook Watchのエリザベス・オルセン主演のオリジナルドラマ『Sorry for Your Loss』が高く評価されていたが、私はFacebookをほとんど使っておらず誰がどうやって視聴しているのか、これ以上はもうついていけないとも思ってしまう。

 2019年にはAppleやディズニー、ワーナーメディアなどが既に飽和状態のオンライン動画配信サービスに乗り込んでくる。作品数はさらに増えることが予想され、最終的にはかつてのケーブル局がそうだったように共存する道を図っていくのだろう。もはや新作でさえ全体像を把握することが困難となる時代に、評論家やライター、ジャーナリストが果たすべき役割、存在意義とは何なのか。そんなことを考えさせられた一年だった。

 最後に20本まで絞り込んだ作品のうち大差はないがランクインしなかった残りの10本を記しておく。

『グッド・プレイス シーズン2』、『フォーエバー ~人生の意味~』、『ザ・テラー』、『アメリカン・クライム・ストーリー:ヴェルサーチ暗殺』、『パトリック・メルローズ』、『DEUCE/ポルノストリート in NY』、『倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道』、『このサイテーな世界の終わり』、『ワイルド・ワイルド・カントリー』、『THE BRIDGE/ブリッジ シーズン4』

■今祥枝
ライター/編集者。2019年2月号より「yom yom」(新潮社)で読物連載「海外エンタメ考 意識高いとかじゃなくて」がスタートします。「小説すばる」(集英社)でコラム「海外ドラマナビ ピークTV最前線」、「日経エンタテインメント!」(日経BP社)で「海外ドラマはやめられない!」、「シネマトゥデイ」で「厳選!ハマる海外ドラマ」を連載中。「BAILA」(集英社)の映画・海外ドラマのナビゲーター担当、「エクラ」(集英社)の映画欄担当ほか。編集協力した書籍「幻に終わった傑作映画たち」が竹書房より好評発売中(ウェブ再構成版がシネマトゥデイで連載中)。Twitter:@SachieIma

■リリース情報
『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ ファイナル・シーズン』
DVDコレクターズBOX 2019年1月9日発売
5枚組 ¥8,000+税
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる