新垣結衣ついに吠える 『獣になれない私たち』が描く“救いのないブラック企業の憂鬱”

新垣結衣ついに吠える 『獣になれない私たち』が描く“救いのないブラック企業の憂鬱”

 「社長に逆らうと怖いから、面倒だから、黙ってやり過ごして、みんな無茶苦茶だって思っているのに表向きでは言うこと聞いて、裏で文句言って」。晶が唇を震わせながら訴えたのと同じく、心には正しさを持ち合わせているのに、文字通り要求を飲むしかできない人がほとんどなはずだ。その結果、1人じゃ太刀打ちできないモンスターがすくすくと育ち、「バリバリ働いてるから」と京谷(田中)に自慢げに報告していた朱里を、「働けなかった」と涙させるまで落とした。

 ただ、今回の放送を受けて、「朱里嫌いだったのに……」とこれまでの批判が覆り、感情移入する人が増えてきたのが、第9話での救いだった。それと同時に、以前NHK総合で放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀「生きづらい、あなたへ~脚本家・坂元裕二~」』で、坂元裕二が語った『Mother』についてのエピソードが重なった。『Mother』で虐待する母親・道木仁美(尾野真千子)への世間からのバッシングを受けた際、坂本は「結果だけ見て、(仁美を)ひどい母親だと断罪することは僕にはできなかった」と振り返り、完成していた第8話を白紙にして、仁美のバックグラウンドを描くことにした。その結果、「他人事とは思えなかった」と視聴者の仁美への目が変わったというのだ。

 朱里は、やる気がなくてミスをしたわけじゃない。デスクに目標を書いて、晶にアドバイスを聞き、ヘトヘトになるまで働いた。ミスをして逃げ出した際も、社長や会社のせいにするのではなく、できなかった自分を責めた。晶と京谷の関係を崩す“がん”のような存在だった彼女を少し掘り下げるだけで、反響が変わるのを見れば、現実世界で自分が自分を生きるのに邪魔な存在でも、様々な経験の上にその人格が形成されていることを、頭の片隅に置いておかなければならないと思う。

 以前、野木にインタビューした際、「ドラマができること」について聞くと、「『獣になれない私たち』の晶のように声を上げられない人がいることも、ドラマにして見せないと埋もれてしまう」と語った。ついに最終回を迎えるわけだが、きっとこのストーリーにゴールというものは存在しないだろう。「来週、あなたの人生に1つのゴールを用意してください」と言われても無理なのと同じで、わたしたちは晶の日常を3カ月間、見学していただけにすぎない。それでも、埋もれてしまいそうだった言葉や考えを、世に送り出してくれただけで、『獣になれない私たち』が生まれた意義は十分にある。

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(文=阿部桜子)

■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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