『踊る大捜査線』青島から『SUITS/スーツ』甲斐へ 織田裕二の俳優人生を辿る

織田裕二の俳優人生を振り返る

 脱サラして所轄の刑事となった青島は、刑事ドラマとは違う警察組織の現実に直面する中、自分にできることを模索していく。当時、勃興しつつあったインターネットやアニメといったオタクカルチャーに対する理解もある青島は、一昔前の刑事ドラマに登場する暑苦しいだけの熱血刑事とは違う、クールなユーモアを内包したオタク世代の刑事であった。

 『踊る大捜査線』は、平均視聴率こそ当時としては高いものではなかったが、マニアックなテイストが熱狂的なファンを生み出し、やがて映画シリーズが4作も作られる大ヒット作となった。その意味でも青島は、織田にとって重要なのはもちろんのこと、テレビドラマ史、邦画史にも残るキャラクターだったと言えよう。これだけの当たり役を演じたことは、俳優としては生涯に一度あるかないかの名誉だが、同時にイメージが固定されてしまう重圧もあったのではないかと思う。

 渥美清が映画『男はつらいよ』シリーズの寅さんこと車寅次郎のイメージを生涯引きずってしまうようなことが、織田に起きてもおかしくなかった。おそらく『踊る大捜査線』以降の織田の俳優人生は、青島のイメージを引き受けると同時に、いかに距離をとるのかという戦いだったのだろう。

 織田は、『踊る大捜査線』が切り開いた大作エンターテインメント路線を引き継ぐ形で、映画『ホワイトアウト』や『アマルフィ 女神の報酬』のようなエンターテインメント作品で主演を演じていく。それは言うなれば、ハリウッド映画におけるトム・クルーズのような立ち位置だった。これらの作品で織田が演じている役柄は、外交官やキャリア官僚といった、『踊る大捜査線』における警察官僚の室井慎次のような存在で、エリート役を演じることで青島のイメージを薄めていった。

『SUITS/スーツ』(c)フジテレビ

 今回の月9ドラマ『SUITS/スーツ』は、海外ドラマを原作とする弁護士モノだが、本作で織田が演じる甲斐正午も、勝つためなら違法スレスレのことも平気でおこなうエリート弁護士である。その意味で『正義は勝つ』の高岡弁護士のその後にも思えるが、甲斐の立ち振舞いは高岡に比べて柔らかく、『踊る大捜査線』の青島にあった、ユーモラスで人を食ったトリックスター性が戻ってきている。同時に、年齢を重ねたことで、円熟した大人の立ち振舞いを見せている。

 物語の中心にいるのは中島裕翔が演じるニセ弁護士・鈴木大輔で、甲斐との関係は、利害で結ばれた共犯関係という危ういものである。だが同時に甲斐は鈴木を導く師匠でもあり、その姿は『踊る大捜査線』でいかりや長介が演じた青島を導く老刑事・和久平八郎のようでもある。織田の俳優人生を見ていると、『踊る大捜査線』で青島が和久に言われた「正しいことをしたければ偉くなれ」を日々、実践しているかのように思えてくる。織田裕二は現在50歳。当時のいかりやの年齢になるのは、まだ10年以上先だが、着々と和久の境地に近づきつつあるのかもしれない。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『SUITS/スーツ』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:織田裕二、中島裕翔(Hey! Say! JUMP)、新木優子、中村アン、鈴木保奈美、今田美桜、小手伸也、磯村勇斗ほか
原作:『SUITS/スーツ』 NBC Universal製作
脚本:池上純哉
演出:土方政人
プロデュース:後藤博幸、小林宙
制作協力:共同テレビジョン
制作著作:フジテレビジョン
(c)フジテレビ
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/SUITS/

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