小川紗良の『バッド・ジーニアス』評:映画全体が“カンニング”のように緻密に計算されている

小川紗良の『バッド・ジーニアス』評

 本作では編集の巧みさにも感動してしまった。130分のうちに、主人公・リンは中学校3年生から高校3年生にまで成長するのだが、その成長速度に全く違和感を感じないほどテンポが良い。もう、本当に、とにかくテンポが良い。テロップや写真、チャイム音などを駆使して作品のリズムが作られており、一瞬たりとも飽きる瞬間がない。特に「エアピアノ」を用いてカンニングをするシーンの編集は圧巻である。音楽、芝居、撮影、全てが完璧に組み合わさっており、見ていてスカッとする。「クラッシックが脳トレに効果があるって知ってる?」という台詞があるが、確かにクラッシックの流れるこのシーンを観ていると、脳が活性化されるような気さえする。

 役者陣の魅力も見逃せない。本作では「問いかけ」に対する「返事」を、台詞ではなく役者の表情や仕草のみで表現しているところが多数ある。眉を少し動かして意思を伝えたり、飲み物を飲む仕草で焦りを表現したり。試験中カンニングをするシーンなんてもちろん会話はないのだが、彼らの視線や動作を観ていると会話が聞こえてくるようである。台詞を吐かずとも会話を成立させる役者陣の表現力も、素晴らしいものであった。主人公・リンがクラスメイトに対して「演技をするのは勉強より難しいと思うわ」と伝えるシーンがある。作り手の頭脳に加え、役者陣の表現力も備わった本作は、恐ろしいほどに欠けたところがない。作り手も、役者も、まさに「危険な天才たち」である。

 「私たちは生まれついての負け犬、人より努力しないとダメなの」「こっちが騙さなきゃ世間に騙されるわ」、主人公・リンは言う。その叫びは学校という小さな社会の中でも深く深く根を張って、いつか少女を狂わせる。映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』は、そんな少女の欲望を「カンニング」というスリルに昇華させたエンターテインメント作品だ。その熱量を、そして少女の出した答えを、ぜひ盗み見ていただきたい。

■小川紗良
1996年生まれ。女優、映画監督。甲斐博和監督作『イノセント15』、岩切一空監督作『聖なるもの』で主演を務め、各国の映画祭で女優として高い評価を得る。現在、『ブラックスキャンダル』(読売テレビ・日本テレビ系)に小嶋夏恋役として出演中。
監督として3年連続で「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に参加。最新作『最期の星』は、第40回ぴあフィルムフィスティバル・コンペティション部門で入選。また2作目の監督作である「BEATOPIA」は、渋谷ユーロスペースでコンピレーション作品『愛と酒場と音楽と』内の1作品としてレイトショー公開中。

■公開情報
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督:ナタウット・プーンピリヤ
脚本:ナタウット・プーンピリヤ、タニーダ・ハンタウィーワッタナー、ワスドーン・ピヤロンナ
出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、チャーノン・サンティナトーンクン、イッサヤー・ホースワン、ティーラドン・スパパンピンヨー、タネート・ワラークンヌクロ
提供:マクザム
配給:ザジフィルムズ/マクザム
後援:タイ王国大使館、タイ国政府観光庁
原題:Chalard Games Goeng/2017年/タイ/タイ語/130分/字幕翻訳:小田代和子/監修:高杉美和
(c)GDH 559 CO., LTD. All rights reserved.
公式サイト: http://maxam.jp/badgenius/

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