『このマンガがすごい!』『プリティが多すぎる』……秋の深夜ドラマはテレ東と日テレに注目!
10月クールのドラマがようやく出揃ってきた。野木亜紀子、さらには大石静に浅野妙子、そして井上由美子と女性脚本家の精鋭、ベテランたちが凌ぎを削っているとも言える今期ドラマは、どれも見逃せないもの、確実に面白いものばかりである。だが、忘れてはならないのが、深夜ドラマだ。今期はいつにもまして注目すべきものが揃っている。そのいくつかを厳選して紹介したい。
ドラマ25『このマンガがすごい!』(テレビ東京)
『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)、『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(テレビ東京系)の松江哲明監督が手がけ、ナビゲーターを蒼井優が務める。俳優たちが実写化したいマンガを選び、独自のアプローチでキャラクターと一体化する過程を1話にまとめている。第1回「森山未來の『うしおととら』」における、自らが役になりきった獣の姿でオーディションを開催し、何十人もの女性たちのタックルと渾身の演技を受け止め続けることで、その役と物語を自分の身体に落とし込んだ森山未來。第2回「東出昌大の『龍-RON-』」における、「嫌い」と言いつつ敬意と名状し難い感情を持つ自身の剣道体験を友人たちとの取り組みを通して振り返っていき、さらにはそれを「役者」という仕事への向き合い方とも重ね、実写化に臨む東出昌大。2人の実に対照的な役に対する取り組み方の違いは、それぞれの性格の違いも垣間見え興味深いものがあった。
そもそも、「マンガの実写化」という言葉を聞くだけで眉をひそめる人は少なくないだろう。特に原作ファン、さらには映画ファンの多くは、似たようなキャスト・スタッフで日々増えていく「実写化」という言葉を肯定的に受け入れられない人は多い。第1回で蒼井優が森山未來に「マンガの実写化がとても増えていること」について問いかけ、「そう(原作モノ)じゃないと企画が通らないぐらいでしょ」と答えるように、今の日本映画(テレビドラマもそうだが)は、マンガの実写化に頼りきりの部分が大きい。ではなぜ、このドラマは、俳優たちに好きなマンガの実写化を試みさせるのか。蒼井優による同業者ならではの問いかけと、彼ら自身が役に近づこうとするアプローチを観察することによって、今の日本映画界においてよくも悪くも避けては通れない「マンガの実写化問題」と俳優たちがどう真摯に向き合おうとしているのか、さらには1つの役を自分のものとして身体に落とし込むための過程から垣間見える、それぞれの演技論が浮き彫りになってくる。
ドラマ24『忘却のサチコ』(テレビ東京)
『孤独のグルメ』(テレビ東京系)を皮切りに始まった“飯テロドラマ”には正直食傷気味だったが、このドラマは一味違う。このドラマの面白さは、食の部分だけでなく、ドラマ部分もしっかりと作りこんでいるところにある。脚本が『あなたには帰る家がある』(TBS系)の大島里美であることも大きいだろう。結婚式当日に新郎が逃亡した過去をどうしても忘れることができず、忘却しようと美食への道をひた走るヒロイン・幸子(高畑充希)が、時に突拍子もなく、時にシュールに、仕事や食べ物に打ち込み、前に進もうとする。吹越満はじめ出版社の編集部で働く幸子の周りを取り巻く個性豊かな作家や同僚たちも魅力的で、ご褒美のように最後にやってくる本当に美味しそうな“飯テロ”映像も妥協しないところがとてもいい。確実にお腹をすかせにくるドラマである。