伊藤健太郎、有村架純を覗き込む“目の引力” 『コーヒーが冷めないうちに』で見せたニュートラルさ
映画『コーヒーが冷めないうちに』が公開中だ。出演は主演の有村架純を筆頭に、薬師丸ひろ子、吉田羊、松重豊ら実力派がズラリ。その中で好演を見せているのが、俳優の伊藤健太郎だ。2014年、ドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)で本格的に俳優デビュー。順調に出演作を重ね、ステップアップを果たしてきた大輪が、今、開花のときを迎えようとしている。
見る者を吸い込む、不思議な目の引力
同作で伊藤健太郎が演じるのは、ヒロイン・時田数(有村架純)の相手役である新谷亮介。深い孤独を抱える数の心に寄り添い、喫茶店の中しか知らなかった彼女を外の世界へと連れ出すキーパーソンだ。
伊藤健太郎の俳優としての最大の魅力は、目だろう。くりっとした黒目がちの瞳は、見ているこちらがいったい何を考えているのだろうと読み取りたくなる余白がある。目力とはまた違う。“引力”といった方が近いだろうか。自然と吸い込まれてしまう目だ。
そんな印象的な目を使った芝居が同作でも効いている。主人公の数はその生まれ持った宿命から周りの人と距離を置いた暮らしをしているのだが、そこに初めて深く踏み込んでくるのが、伊藤演じる亮介だ。亮介の目は、不純物がない。眼差しに迷いがなさすぎて、つい他の人には話せないようなことも話してしまえる不思議な安心感がある。物語が進むにつれて、どんどん数と亮介の距離は近づいていくのだが、数を見つめる亮介の眼差しは慈しみに溢れていて、それでいて押しつけがましくなく、さり気ない。特に自分より背の低い数を、身を屈めるようにして覗き込む目が、背景の雪景色に負けないくらいイノセントで魅力的だった。
こうした伊藤の目の魅力はこれまでの出演作でも存分に示されている。最も代表的なものを挙げるとすれば、『アシガール』(NHK)の羽木九八郎忠清だろうか。伊藤自身、顔立ちは非常に古風で硬派。それでいて決して粗野な感じはなく、むしろ年齢以上の落ち着きや品があり、涼やかな雰囲気を醸し出している。そんなビジュアル的魅力が戦国大名の跡取りという役どころにマッチ。その澄み切った瞳は、若君が聡明で凜々しい男性であることを台詞で説明しなくても表現しており、普段は決して感情表現の大きくない若君が、優しくくしゃりと目尻を垂らすさまに、多くの女性たちが劇中での呼び名そのままに「若君」と呼んで恋心を募らせた。語らずとも漏れ出る“目の引力”は、俳優・伊藤健太郎の大きな武器だ。