伊藤健太郎、有村架純を覗き込む“目の引力” 『コーヒーが冷めないうちに』で見せたニュートラルさ
少女漫画的キラキラに染まらない、ニュートラルな存在感
また、もうひとつ映画『コーヒーが冷めないうちに』で伊藤健太郎が見せた秀逸な点に、“ニュートラルさ”がある。同作のような主人公が複雑な事情を抱えている作品の場合、相手役となる男性はどうしてもスーパーヒーロー的になりがち。だが、亮介はあくまで普通の大学生だ。そして、そこが亮介の魅力でもある。
美大の仲間たちとつるんでいる様子は、どこにでもいる大学生そのもの。エッジの効いた役よりも普通の役を演じる方が難しい、と言うのはよく聞く話だが、伊藤はこの普通のさじ加減が抜群に上手い。もちろん年越しのキスシーンなど、思わずキュンとなる場面もあるが、亮介は決してキラキラの王子様でも、ピンチを救う無敵のヒーローでもない。上から手を差し伸べて引っ張り上げるのではなく、数と肩を並べて一緒に歩いていこうとする。穏やかだけど芯がある今時の男性らしい人物像に仕上がっていた。
伊藤の魅力も、亮介のような“ニュートラルさ”にあると思う。メガホンをとった塚原あゆ子監督とは『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系)でも現場を共にしている。このとき、伊藤が演じたのは、主人公・橘みやび(中谷美紀、高校時代は松井珠理奈)が長年片想いをしていた桜井洋介(徳井義実)の高校時代。女子人気の高い、いかにも少女漫画的なキャラクターだった。だが、伊藤が演じると過剰なキラキラ感は薄れ、互いに想いを寄せ合っているのに通じることがない関係に、20年前の高校生らしいじれったさが感じられた。
これまでの出演作を見ても、非常にニュートラルだ。映画『ルームロンダリング』では挙動不審だがヒロインのために正義感溢れる行動に出るメガネ男子を、映画『デメキン』では仲間思いの暴走族総長を演じるなど、振り幅は広く、それでいて特定のイメージに偏っていない。今時感も、古風さも、自由自在。映画『コーヒーが冷めないうちに』でも序盤は美大生だが、年月の経過と共にサラリーマンとなる。そのとき、前髪を上げただけで、少年の面影を残したあどけない大学生だった亮介の印象がガラリと変わって驚かされた。クリエイターの視点から見たときに、伊藤健太郎という素材は、いかようにでも染めることができて、それでいて作品ごとに異なる魅力がにじみ出る、面白い存在なのだと思う。
10月からは『今日から俺は!!』(日本テレビ系)で生真面目で義理堅いウニ頭の伊藤真司を演じる。監督を務める福田雄一とは本作で初タッグ。そのニュートラルな存在感が光る伊藤が、クセの強い「福田組」でどんな色を放つのか。ネクストブレイク俳優の躍進に期待したい。
■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。Twitter:@fudge_2002
■公開情報
『コーヒーが冷めないうちに』
全国東宝系にて公開中
出演:有村架純、伊藤健太郎、波瑠、林遣都、深水元基、松本若菜、薬師丸ひろ子、吉田羊、松重豊、石田ゆり子
原作:川口俊和(『コーヒーが冷めないうちに』『この嘘がばれないうちに』サンマーク出版刊)
監督:塚原あゆ子
脚本:奥寺佐渡子
配給:東宝
(c)2018 映画「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会
公式サイト:http://coffee-movie.jp/