稲森いずみ、山口紗弥加、岸井ゆきの、桜井ユキ 『モンテ・クリスト伯』“覚醒”する女優たち

『モンテ・クリスト伯』狂気の女優たち

 『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)は19世紀のフランスの小説を現代の日本に置き換えた復讐ドラマである。男たちが発露するほの暗い妬みや権力欲をきっかけに、物語はドラマチックな展開を見せる。出世のため、保身のため、嫉妬心に駆られた男たちが過去に犯した罪により、彼らに関係のある女性たちも運命に翻弄される。原作ファンも納得のキャスティングで話題の本作。主人公・モンテ・クリスト・真海(ディーン・フジオカ)の復讐によって、女性たちが覚醒していく描写が美しくも恐ろしい。

稲森いずみ(神楽留美役)

 特に5月24日放送の第6話では、神楽留美を演じる稲森いずみが眩しいくらいに光っていた。夫である神楽清(新井浩文)と結婚する前に愛人だった入間公平(高橋克典)との間に生まれた我が子が生きていたと真海から知らされ、涙を流すシーン。ただ生きていてくれただけでいい、死んだはずの我が子が犯罪者だったとしても、「彼はただ一生懸命生きてきただけ」と、息子のすべてを肯定する母の愛を見せつける。留美に対して「腐ったババアを抱いてやったんだから感謝しろよ」という暴言など、彼女にとっては痛くも痒くもないのだ。

 死体(じつは死にかけていた状態)を見て動揺する息子に対して、「こういうときは埋めるのよ」とキッパリ指示。悲しい過去を引きずる同情すべき女のイメージを覆す度量の大きさを印象づけた。これには「自分の息子と寝たと知って絶望すると思っていたが、あんな嬉しそうな顔をするとは……」と、冷静な真海(ディーン・フジオカ)も想定外のリアクション。真海がもたらした息子との再会によって留美に母性全開スイッチが入った瞬間だった。

 稲森いずみといえば、『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)で主人公・弓神(浅野忠信)の上司であり、強行犯係の中で唯一の女性である係長、菅能理香を演じたときも凛々しい佇まいにもどこか色気を感じさせるものがあった。数多くの作品に出演し、年齢を重ねて役の幅を拡げながらも、意外なほど母親役のイメージがなかった。ゆえに、狂気を感じるほどの息子への愛情を見せつけた本作の演技はより衝撃的だった。緻密に計画を立て、復讐を実行していく真海でさえ予測不可能な留美の言動。稲森いずみの凄みを増す演技にますます期待がかかる。

山口紗弥加(入間瑛理奈役)

 そして、狂気を感じるほどの母性といえば、入間公平(高橋克典)の後妻、入間瑛理奈を演じる山口紗弥加の悪女ぶりも話題だ。脳梗塞で寝たきりの公平の父、貞吉(伊武雅刀)の遺産をすべて自分の息子に相続させるためならば殺人も厭わない。すでに前妻と、公平と前妻との間に生まれた娘・未蘭(岸井ゆきの)の婚約者である出口文矢(尾上寛之)の2人は瑛理奈の手によって殺害された。まだキッチンには毒入りのガラスの小瓶がある。

 真海の台詞で「清濁合わせ飲んで生きてきた人間は必ず自分の中に悪魔を抱えこむことになる」とあったが、瑛理奈は自分の中に棲む悪魔を飼いならして楽しんでいる女性だ。愛しているのは我が子だけ。我が子に遺産が入るのを邪魔する存在は確実に消す。

 重々しい家庭の中に響く瑛理奈の明るい笑い声や鼻歌、朗らかな様子には若干の違和感があった。この違和感のさじ加減のうまさ、彼女が飼いならす悪魔の見せ方が絶妙なのだ。彼女が息子を見つめる眼差し、ふと見せる横顔、上機嫌を装う表情にも複雑な内面を窺うことができる。大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK総合)で小野玄蕃の妻、なつを演じた際に見せた奥行きのある演技も印象に残るものだったが、今回の悪女の凄みは彼女にしか出せない味がある。

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