池松壮亮が私たちの悩みをぶち破ってくれる 『宮本から君へ』が現在に蘇った意義

『宮本から君へ』が熱くてしょうがない

 その後、とてつもなく不器用な2人の、恋愛にも至らない、それでもこの上なく美しい、ため息が出るような“恋愛模様”が繰り広げられる。店から出た裕奈は相変わらずのドンくささで勢いよく傘をさそうとして風に吹き飛ばされる。水色の傘に手をのばそうとしてよろめいた、これまた水色の服を着た裕奈の手を宮本が捕まえる。そのまま、飲めないお酒のせいでちょっとだけ大胆になった裕奈が、手を繋いだまま宮本を引っ張るように、人気のない道路を歩くのだ。「手を離す勇気も、握り直す勇気もない」宮本はされるがままで、水色の彼女は、信号が青から赤に変わるとき、髪をまとめていた若干赤みがかったリボンをほどき、宮本を誘うのである。そして、宮本はいったん彼女の手を離し、再び握り直すように強く抱きしめる。そのとき信号は再び点滅し、青から赤へと変わる。

 だからと言って彼らが実際にどうにかなるわけではない。「惚れた女以外は抱かない」という中学生の頃の誓いを破れない宮本は、裕奈とラブホテルで一夜をともにするにはするが、一線は越えず、次の朝に“鼻血”という「出すものを出」して、周囲から不思議がられるほどスッキリと、「優しい顔」をして上機嫌に仕事に励むのである。

 それは中学の頃からの誓いを貫いた達成感と、意地悪く言えば上から目線の優越感と自信もわずかにはあるだろう。だが、なによりそれは、1人の女性を変容させ、互いの秘密を共有し、1つの傘、1つの部屋で雨風をしのぎ、見つめ合って掴んだ手を握り直した上に、悲しい記憶を語りながらオズオズと切ない微笑みを浮かべる彼女を朝までただ抱きしめることで起こった、肉体関係よりも密接な交わり、優しさで繋がる擬似的な性行為だったのかもしれない。

「一番盛り上がるのって学校時代の思い出話」で、その話をする宮本は「すっごくイキイキした表情をする」とこのドラマのマドンナ・甲田美沙子は言う。それを聞いた同期の田島は宮本を冷やかし、宮本はちょっと困ったような表情を浮かべる。それもまた、学校時代の悲しい記憶を引きずり続ける裕奈とは逆の、学校時代の楽しい記憶を引きずり続けるしかない宮本の切なさとやりきれなさを感じる。

 宮本がどうあの型破りな暑苦しさで、自分の人生に対する葛藤を乗り越えるのか。宮本なら、テレビの向こうにいる私たちの悩みまで一緒にぶち破ってくれそうな気がする。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
ドラマ25『宮本から君へ』
テレビ東京、テレビ大阪ほか、毎週金曜深夜0:52~1:23
原作:新井英樹『定本 宮本から君へ』1巻~4巻(太田出版)
出演:池松壮亮、柄本時生、星田英利、華村あすか、新名基浩、古舘寛治、高橋和也、浅香航大、酒井敏也、蒼井優、松山ケンイチ
脚本・監督:真利子哲也
主題歌 :「Easy GO」エレファントカシマシ(ユニバーサル シグマ)
エンディングテーマ: 「革命」MOROHA(YAVAY YAYVA RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
チーフプロデューサー:大和健太郎(テレビ東京)
プロデューサー:藤野慎也(テレビ東京)、清水啓太郎(松竹撮影所)、加藤賢治(松竹撮影所)
製作著作:「宮本から君へ」製作委員会
(c)「宮本から君へ」製作委員会
公式サイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/miyamoto_kimi/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる