ドSな解剖医・中堂系役で新たな境地へ! 井浦新が“アンナチュラル”な理由

井浦新が“アンナチュラル”な理由

 新年1月クールのドラマも出揃ったところで、高評価の波に乗る『アンナチュラル』。法医学ものを、よくある事件解決や犯人探しによらず群像劇として仕立てた目新しさもさることながら、働き方や男女差別といったホットな社会問題も取り入れたストーリーは毎度見応え十分。主人公・三澄ミコトに扮した石原さとみの“リケジョ”ぶりも痛快で、今期放映中の女性が主人公のドラマ作品の中ではダントツ視聴率トップというのも頷ける。

 しかし、本作で石原以上に注目を集めているのが、同僚の解剖医・中堂系を演じる井浦新だ。開始当初から強烈なインパクトで物語に緊張感を与え、回を追うにつれじわじわと存在感を増している。いわば、誰よりも彼が“アンナチュラル”なのだ。この役に井浦をキャスティングした製作陣は、さぞ「してやったり」とほくそ笑んでいることだろう。

 今作で初めて彼の存在を認識した視聴者もいるかもしれない前提で書くと、そもそも井浦は民放ドラマ出演自体がさほど多くない。しかし、その実、俳優歴は20年にもなるキャリアの持ち主で主に映画界で活躍してきた。その名を一躍世に知らしめた作品といえば2002年公開の『ピンポン』だろう。本作でのクールな卓球少年役は映画のヒットもあって、今なお語り草となっている。また、彼は映画を主戦場とする中で、是枝裕和、堤幸彦、大森立嗣ら錚々たる顔ぶれに愛されてきた。中でも、故若松孝二監督は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を皮切りに、晩年の5作品全てに彼を起用。井浦自身も若松を「恩師」と仰ぐほどで、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』では、作品にアルファベット表記の名前がふさわしくないと、ARATAから井浦新に改名したエピソードも持つ。俳優として転機が訪れたのもこの頃のようで、以降目に見えて演技の濃度が増した印象だ。表情少なくどこか浮世離れした佇まいに“狂気”じみたものが加わった。よく「この俳優が出ると映画が締まる」というような言い方をされる俳優がいるが、間違いなく彼もそんな雰囲気を持ったひとり。インスタ映えならぬ“映画映え”とでも言おうか。しかしその分、ある程度のわかりやすさを必要とする民放ドラマでは浮きがちだったのも事実。役どころによっては、見ているこっちがハラハラするような、ちぐはぐさを醸し出してしまっていた。

 しかし、『アンナチュラル』ではこのちぐはぐさが、かえって中堂という人物のミステリアスさを際立たせていてとても良い。陰気でドSでモラハラ上等。心底嫌な人間かと思いきや、意外と天然な一面を持っていたり、いざという時は誰よりも頼りになる。比較的リアリティのある他の登場人物と比べると、クセが強すぎていかにもなキャラではあるが、井浦が演じることで独特な人物像にさらに拍車がかかり、圧倒的な存在感につながっている。解剖台で寝ている風変わりな人物だった第1話、傍若無人な態度ながら結果的にミコトらのピンチを救った第2話、先日放送された第3話の、法廷に立ち陰険な検事をやり込めてしまうくだりはなんとも言えず爽快だった。(108回の「クソ」発言にも思わず笑った。)回を重ねるにつれ、出番やセリフが増えているのも意図的なものだろう。こうして徐々に “違和感”を感じさせながら、視聴者に物語のテーマを悟らせる狂言回し的な役割と取ることもできる。いずれにせよ、後半では主人公のミコトを食うほどの立ち回りを見せてくれるはずだ。

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