80年代ホラーの金字塔『ハウリング』は今こそ観るべき! 特殊メイクの歴史を変えた、その革新性

80年代ホラーの金字塔『ハウリング』評

対照的な2作品に共通するテーマ

 『ハウリング』の狼男変身シーンにおける、伸縮する男の顔は、『エイリアン』の造形がそうであるように、男性の生殖器のイメージが与えられていることは明らかである。女性ニュースキャスターが、猟奇殺人犯にポルノショップの個室で襲われるという冒頭の展開や、植えつけられた恐怖を克服するために向かった、自然に囲まれた療養キャンプでの惨劇は、『ハウリング II』の直接的な描写と同様に性的なイメージと結びついたものである。狼人間への変身や暴力は、現代社会のなかで抑圧された、獣のような本能的欲望の象徴となっている。

 アメリカを代表する文学者エドガー・アラン・ポーの短編『黒猫』で、最もおそろしいものとして描かれたのは、黒猫のたたりではなく、人間のなかに潜む暴力性だった。普段は温厚な主人公が、定期的に湧きあがる嗜虐心によって、かわいい飼い猫を虐待し、ついには目玉をえぐり出してしまう。

 人間が定期的に狼になってしまう「狼男」という存在は、そんな人間の二面性を象徴している。善き家庭人と思われた人物が、じつは裏で浮気をしていたり、突然暴力的になり家族や動物を虐待するなど、自分の知っている人間が豹変する、もしくは豹変するのではないかと想像することは恐怖である。さらにおそろしいのは、自分自身にも、猟奇殺人犯や暴力の加害者、性的にモラルを踏み外す人間に共通する、獣のような部分がどこかにあり、いつかそうなってしまうのではないかという不安だ。時を経てなお『ハウリング』シリーズの恐怖が、鑑賞者を震えあがらせるというのは、この作品がそのような根源的な恐怖に接続されているからだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
第8弾『ハウリングI・II≪最終盤≫』
11月8日発売
価格:15,000円+税(Blu-ray3枚組/KIXF-497〜499))
発売・販売元:キングレコード
本編:約181分+映像特典尺(未定)ブックレット32P封入
※通常盤・単品ブルーレイ 1『ハウリングI』4,800円+税(KIXF-500)/2『ハウリングII』4,800円+税(KIXF-501)
【本編DISC1】
『ハウリングI』(本編91分)
本編収録※オリジナル音声はリニアPCMで収録
音声特典:1日本語吹替(1982年日本テレビ水曜ロードショー放送)
2バタリアンズ・山口雄大監督×井口昇監督によるオーディオコメンタリー
原題:「The Howling」/1981年/アメリカ映画/91分


【本編DISC2】
『ハウリングII』(本編90分)
本編収録※オリジナル音声はリニアPCMで収録
音声特典:1日本語吹替
2バタリアンズ・山口雄大監督×井口昇監督によるオーディオコメンタリー
原題:「Howling II:YOUR SISTER IS A WEREWOLF」/1985年/イギリス映画/90分
【特典DISC3】
特典映像 ※特典映像は収録が変更になる場合あり。
<ハウリング>
・Howlings Eternal with Steven A.Lane
・Cut to Shreds with Editor Mark Goldblatt
・Interview with Co-writer Terrence Winkless
・Horror'sHallowedGround:ALookattheFilm'sLocations
・InterviewwithStopMotionAnimatorDavidAllen
・Thewerewolfeffect
・オリジナル予告編
・フォトギャラリー
<ハウリングII>
・Leading Man-An Interview with Reb Brown
・Queen of the Werewolves-An Interview with Actress Sybil Danning
・A Monkey Phase-Interviews with Special Make Up Effects Artists Steve Johnson and Scott Wheeler
・オリジナル予告編
・スチールギャラリー 

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる