満島ひかりは敵か味方か? 視聴者参加型ドラマ『監獄のお姫さま』の舞台的面白さ

『監獄のお姫さま』の舞台的面白さ

「はぁー、もう誰も信じられない。一歩も動けない」

 先生(満島ひかり)は、敵か味方か、大きく揺れた『監獄のお姫さま』第7話。馬場カヨ(小泉今日子)と検事・長谷川(塚本高史)の獄中交際、女優(坂井真紀)の過去、吾郎(伊勢谷友介)と千夏(菅野美穂)のハニートラップ、そして晴海(乙葉)と先生の密談……と、ストーリーが加速して、まさにみぞみぞしっぱなしの1時間だった。

 2014年、姫の冤罪を晴らすそうと復讐を誓った女囚たち。平日は工場勤務、土日は資格取得に励み、共通の目標はいつしか生きがいになっていた。イキイキと生活する馬場カヨに長谷川は告白し、ふたりは獄中交際をスタート。「カヨ」「のぶりん」と呼び合い、面会デートを重ねていく。目標を持ち、仲間に恵まれ、愛される喜びも手に入れた、馬場カヨは刑務所なのに“もろきゅう“、いや“リア充“に。

 しかし、気になるのは女囚たちの作戦会議を聞いていた先生の上機嫌さだ。「69番、なんでもなーい。おやすみ」なんて、以前の“ツン“な先生ではありえない“デレ“モード。遠距離恋愛中で妊活を始めたというパティシエの影響だろうか。くるくると表情の変わる先生の本音がどこにあるのか、目が離せない。馬場カヨの復讐計画にどういった経緯で仲間入りするのか、真相が語られるのを心待ちにしている。

 このドラマがニクいのは、1話の中に喜怒哀楽がすべて詰まっているところだろう。馬場カヨの喜び、先生の怒り、仲間で集まったときの楽しみをベースに、今回は女優の哀しみが語られる。だが、単純にはいかない。ここでもクドカン脚本の妙技が光る。女優が過去を語り始めると、長谷川が「このタイミングで再審請求の資料を……」と提案。「何よ、このタイミングって。CM? 私の過去はCMか? またぐのか? またがせないっつーの!」そうまくし立てる女優が、話していると、不自然なタイミングで本当のCMへ。「CMまたいだじゃん!」と筆者も思わずツッコミを入れてしまった。そんな視聴者が一方的に情景を見ているだけではなく、つい声を出して参加したくなる舞台的面白さが、このドラマの魅力だろう。

 しかし、遊び心たっぷりに描かれるも、語られる過去はズシリと心に重い。舞台俳優・大洋泉のストーカーをしていた女優。その追っかけ資金欲しさに男を次々と騙し歩く。2.5次元の世界を愛でるあまり、現実社会で取り返しの付かないところまで暴走してしまったのだろう。7年の刑期を満了して出所。再び大洋泉の舞台を見に行くと、当時のときめきはもうなくなっていた。切ないのは、夢から覚めたからこそ大洋泉とのコミュニケーションが正常に取れるようになったこと。なのに、追っかけだったのだからと、手を出されそうになる女優。まだあの舞台に立ち続ける大洋泉と、生まれ変わろうとした女優は、もう同じところにはいないのだ。

 好きなままでいさせてほしかった女と、美しい思い出にはさせてくれない男。それは、この監獄に集まる女囚たちみんなに言えることかもしれない。「勝手に好きになって、勝手に飽きやがってよ」大洋泉の捨て台詞が悲しく響く。愛した人は、自分自身の人生の一部だ。「ろくなもんじゃねぇ」そうつぶやきながら夜道を歩く女優は、大洋泉にガッカリしながら、自分の過去を嘆いたのだろう。そう思うと、胸がギュッとなる。

 一つひとつの選択が、未来につながっている。そう思うと彼女たちが今、強行している誘拐事件が「ろくなもんじゃねぇ」とならないように祈るばかりだ。そしてドラマは、まだまだ気になることだらけ。不自然な姉御(森下愛子)の居眠りは? 同じ雑居房仲間のリン (江井エステファニー)の現在は? 小シャブはなぜアジトに来ない? そして乙葉をアジトにつれてくる先生の真意は?

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