アメリカ刑務所を生き抜いた日本人・Mr.KEIが語る、『ブラッド・スローン』のリアリティ

『ブラッド・スローン』Mr.KEIが語る

 外の世界とは違う刑務所内の“絆”

――この映画のように、刑務所内での主導権は、囚人たちが握っているものなのですか?

KEI:この映画に限らず、アメリカの刑務所は、どこもそうだと思います。囚人がいないと刑務官はお金を稼げないわけですから。彼らの給料は本当に微々たるものなんです。とはいえ、刑務官のほうも取引する相手は慎重に選びます。その囚人を何ヶ月か見ていて、こいつは大丈夫そうだなと思わない限り寄ってこないです。チクられると、彼らもクビになってしまうから。そう、刑務官がクビになって、その何ヶ月かあとに囚人になって戻ってくるというパターンは、よくありました。

――本作で描かれていたような、人種間のグループによる対立みたいなものも、やはり存在する?

KEI:もちろん。この映画に登場する「AB(アーリアン・ブラザーフッド)」は、自分もよく知っています。オレゴンの刑務所に収監されていた頃、一緒になりました。そこは白人主体の刑務所だったので、彼らの力が強いんですよ。結局自分は、チカーノのグループと行動をともにするようになるのですが、人種間グループの小競り合いみたいなものは、もう毎日ありました。というか、そういう人種間グループがなかったら、統率がとれないんだと思います。もし、それがなかったら、毎日暴動が起きてしまうのではないでしょうか。

――今回の映画では、囚人たちのボスが、刑務所内はもちろん、刑務所の外にも強い影響力を持っているように描かれていました。実際、そういうことはある?

KEI:『アメリカン・ミー』という映画を、ご覧になったことはありますか?

――いや、観てないです。

KEI:そうですか。あの映画は、この映画で描かれている刑務所のモデルのひとつになったと思われる、サンクエンティン州立刑務所を舞台とした映画で……それは本当に、サンクエンティンの現実をそのまま描いたような映画になっているんです。その映画をコーディネイトした人たちが全員殺されてしまったという、いわくつきの映画なのですが……。

――なるほど……。

KEI:その映画の中で、このへんの事情は、全部描かれています。つまり、刑務所の中にいるビッグホーミー(※チカーノ用語でギャングの大ボスを指す)と、外にいるビックホーミーがいるわけです。で、外から中に指示を出したり、中から外に指示を出したりする。そういうことは、実際にあると思いますね。ビッグホーミーたちは刑が非常に重いので、基本的に外の世界に戻ることはないんです。彼らは、もう何十年も、ずっと刑務所の中にいるんですよね。

――話を聞いていると、アメリカの刑務所システムには、やはり大きな問題点があるような気がしてならないのですが、KEIさん自身は、どのように考えていますか?

KEI:そうですね……自分はすごい楽しかったので、そのあたりは何とも言えないです(笑)。そう、長いこと入っていると、刑務所の中に入っているという感覚が、だんだんなくなってくるんですよ。刑務所の中とはいえ、やっぱり自由じゃないですか。もちろん、そこに自分の家族がいないという寂しさはありますが、好きなものも買えるし、稼ごうと思えばいくらでも稼げるので。

――そこで「稼げる」というのがすごいですよね。

KEI:たとえば、刑務所の中でヘロインというのは、ビッグビジネスになっていて一袋5000ドルになるんですよ。

――そんなに……というか、映画の中にもありましたが、口から飲み込んで下から出すみたいなことは、普通にやっているのですね。

KEI:自分が親しくしていたチカーノの若い子たちは、外の世界にいても、多分そんなに稼げないと思うんですよ。だけど、中にいたらお金持ちにもなれる。だから、誰か仲間が出所するときは……その前日は、みんなでいろんな料理を作ってお祝いをするのですが、当日の朝、アナウンスで呼び出されても、大体隠れちゃいますから。外の世界に出るのが嫌で。体育館のマットの下とかに隠れちゃうんですよ(笑)。

――そこには外の世界とは違う、濃密な人間関係があったりもするわけですか。

KEI:そうですね。自分はもう出てきて16年経つのですが、そのあいだに昔の仲間たちが、次々出所するじゃないですか。そいつらが、わざわざ日本まで会いにきてくれるんですよ。自分はもうアメリカに行けないので。で、実際会っても、中にいたときのまんまの感じで接することができる。日本の刑務所だと、なかなかそうはならないですよね。外で会ったら、中にいたときとは全然違うやつになっていたりするので。だけど、チカーノのやつらは、中にいたときも外にいるときも同じなんですよ。逆に、うちのスタッフの人間が仕事でアメリカに行くときには、いろいろと面倒も見てくれますし。日本人は、そこまでしてくれないですよね。

――その「絆」は、強いわけですね。

KEI:だからやっぱり、彼らも刑務所の中でルールを学びながら、そこで自分たちが生きていくための道徳みたいのを身につけているんですよね。そうじゃないやつらは、どうしてもお金が先にきてしまうんです。そうすると、お金のために平気で人を裏切ったりする。そこはすごく違いがあるように自分は思います。

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