『白い闇の女』エロティック・サスペンスとしての吸引力ーー確約されていないがゆえの期待

加藤よしきの『白い闇の女』評

 ビデオ屋の新作コーナーには、今日も様々なジャンルのDVD/ブルーレイが並ぶ。多種ある映画がビデオ屋に並んだとき、最も吸引力があるジャンルは何か? 劇場公開/DVDスルーの垣根を超え、批評や興行的成功を抜きにして、棚に並んだときの「惹き」の強さで競い合ったとき、今現在、最も吸引力のある映画は決まっていない……が、筆者はエロティック・サスペンスを推したい。

 ネットを覗けば世界中のエロ動画が溢れ、そもそもビデオ屋に行けばアダルト・ビデオのコーナーだってある。エロを求めるなら、いくらでも他に選択肢はあるのだ。しかし、エロティック・サスペンス(そして文芸エロス)というジャンルは決してビデオ屋から消えることはないし、確かな「惹き」を持っている。それはエロティック・サスペンスに「エロ」以外の「何か」があるからだ。その「何か」ゆえに人は手を伸ばし、そのコーナーは常に存在し続ける。

 では、その「何か」とは何なのだろうか? 筆者が考えるに、その「何か」は「確約されていないがゆえの期待」と表現するのが適切だと思う。このジャンルは、エロがメインでないので、エロくなるかエロくならないか、実際に最後まで見るまで分からないのである。しかし、だからこそソフトを手に取るとき、そしてエンドマークが出るまで「今はエロくなくても、そろそろエロくなるんじゃないか?」という下世話な期待を胸に抱いたまま映画を見続けることができるのだ。そして今回ご紹介する『白い闇の女』も、そんな「確約されていないがゆえの期待」が確かにある。

 映画の粗筋はこうだ。事件記者ポーター・レン。彼はハードボイルドな男である。現在も事件を追いながら、妻子と共に慎ましい暮らしを送っていた。しかしある日、レンはあることをキッカケに絶世の美女キャロラインと出会う。そして流されるがまま肉体関係を結ぶ。案の定、キャロラインは重大な秘密と厄介なトラブルを抱えていた。果たしてレンを待ち受ける運命とは? 絶世の美女を演じるのはテレビドラマで活躍するイヴォンヌ・ストラホフスキー、そして主人公レンを演じるのはエイドリアン・ブロディ。

 『戦場のピアニスト(02年)』で世界的な名声を手に入れつつ、ムキムキになってプレデターやジャッキーと戦い、時に羽の生えた人造生命体とのセックス・シーンを演じるド根性演技と、その独特なビジュアルが魅力の名優だ。美形なのは間違いないが、タフでワイルドな感じではなく、どこか頼りなく、情けない役が似合う。そして本作のレンのような「下半身の欲求に負けたせいで最愛の人を裏切り、右往左往する男」というのは、どうしたって情けなく見えるもの。情けない役が似合うビジュアルで、しかも演技が上手い。そんな人が情けない役を演じれば、そりゃハマるに決まっている。己の下半身がトラブルの原因なのに、常にハードボイルドなモノローグを呟き続けるのもポイントが高い。

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