安藤サクラ『民生ボーイと狂わせガール』で“怪演” エッジの効いたキャラとの相性を読む
この一連のシーンで、コーロキを精神的にも肉体的にも追い込んでいく。唐突に大声を上げるような情緒不安定ぶりであるが、演じる安藤自身、どうも楽しんでいるような余裕を感じてしまう。これまで幅広い役柄をこなしてきた安藤だからこそのものだろうか。美上としては焦燥感に駆られながらも、安藤としてはコーロキを弄んでいるように見えるのだ。絶妙なさじ加減で、美上というキャラクターを漫画や映画の中にだけ存在する「おかしな人」ではなく、実際に身の回りにいそうな「少し変わった人」にまでおさめている。3年後、「民生のように」なれなかったが、編集者としては大成したコーロキは、他者との関わり方を学んだという。美上が口にしていた「奥田民生になりたいボーイ、夜明けのキャットファイト」の場面は、本作の中で唯一、コーロキが誰かと共同作業を行った場面でもあるのだ。
この「3年」という大きな時間の省略があるが、美上の存在が彼の変化に影響したことは間違いなさそうだ。ラスト近くでコーロキに送る微笑には、たしかに3年という時間が真実味をもって感じられる。焦燥感と余裕と、さらには「3年」という大きな時間まで体現してしまう安藤サクラは恐ろしい。
■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。
■公開情報
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』
全国東宝系にて公開中
原作:渋谷直角「奥田民生になりたいボーイ・出会う男すべて狂わせるガール」(扶桑社)
監督・脚本:大根仁
出演:妻夫木聡、水原希子、新井浩文、安藤サクラ、リリー・フランキー、松尾スズキ
制作:ホリプロ、オフィスクレッシェンド
制作協力:東宝映画
配給:東宝
(c)2017「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」製作委員会
公式サイト:tamioboy-kuruwasegirl.jp