濱口竜介監督、商業映画で真価発揮なるか? モルモット吉田が『寝ても覚めても』の可能性を探る

濱口竜介監督、商業映画で真価発揮なるか?

 4時間を越える長編『親密さ』、染谷将太、渋川清彦、石田法嗣を主演に迎えた中編『不気味なものの肌に触れる』、文部科学大臣芸術選奨新人賞を受賞した『ハッピーアワー』など、映画ファン、映画界を驚かせる鮮烈な作品を発表し続けている濱口竜介監督。7月5日、そんな濱口監督の商業映画デビュー作『寝ても覚めても』公開の情報が発表された。(メイン写真は『ハッピーアワー』(C)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト)

 これまで、インディペンデントで映画を製作してきた濱口監督が、遂に全国一斉公開の作品を手がける。デビュー時から濱口竜介監督の作品を観てきた映画評論家のモルモット吉田氏は、濱口監督について次のように語る。

「濱口監督は東京藝術大学大学院映像研究科で映画を学んでいた方ですが、卒業制作の『PASSION』の段階で、十分商業映画で通用する実力があると感じました。台詞や会話の妙は、脚本家の荒井晴彦さんも珍しく褒めていたほどです。第9回東京フィルメックスのコンペティション部門にも選出され、評論家や作り手たちからも非常に高い評価を得ていました。これまでの日本映画の流れからすると、このタイミングで次回作は商業映画を手がける方がほとんどでした。想像ですが、濱口監督にもオファーはあったのではないでしょうか。でも、そういった一般的なルートには乗らず、東京藝術大学と韓国国立アカデミーとの共同制作の『The Depths』、酒井耕監督との共同制作映画「東北三部作」や、ENBUゼミナール・映像俳優コースで作られた『親密さ』、そして神戸の演技ワークショップで作られた『ハッピーアワー』と、濱口監督の豊かな作品群を眺めると、商業映画を手がけることがゴールではないと感じさせますね。映画や演技を学ぶ環境が昔に比べて広がっているだけに、そうした場で作られる映画に大きな可能性が秘められていることを感じます」

 インディペンデントで映画を作り続けてきた濱口監督だが、意外にもメジャー映画でこそ真価を発揮するのでは、とモルモット吉田氏は語る。

「『寝ても覚めても』の製作経緯は分かりませんが、原作の柴崎友香さんが『ハッピーアワー』のパンフレットにもコメントを書かれていますし、かなり前から企画開発を行なっていたようです。監督自身も原作に『途方もない面白さや、懐の広さを改めて感じている』とコメントしていましたが、自身が映画化を熱望していたそうなので、監督を頼まれた原作を手掛けたというよりも、題材と作品の規模がたまたま幸福な形で合致したということなのかも知れません。濱口監督自身も、念願の商業映画デビューだとか、インディペンデント映画だからという線引きは意識してないのではないでしょうか。そういえば、『ハッピーアワー』を観たとき、演技経験のない人たちの日常をナチュラルに描くスタイルなら、同年に公開された『テラスハウス クロージングドア』と通じ合うものを感じました。周辺状況を取り払って、むきだしの映画として観ると、やっていることは大きく違いはないのではないでしょうか。その意味で、東宝などの大手映画会社でも『ハッピーアワー』が受け入れられる土壌がないとは言えないはずです。また今回の作品で俳優たちとこれまでのようなワークショップスタイルで演技を作り上げていくのかも気になるところです。時間をかけて企画を作り上げるスタイルは、腰を据えて製作をすることができる大手会社でこそ生きる可能性もあると感じます」

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