『オンリー・ゴッド』は失敗作だったのか? N・W・レフン監督の苦悩捉えた迫真ドキュメンタリー

『オンリー・ゴッド』は失敗作?

ホドロフスキーのタロットカードに翻弄される

 本作では、レフン夫妻と、高齢の映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーとの交流も写し取られている。ホドロフスキーといえば、『エル・トポ』や『ホーリー・マウンテン』など、実験的なカルト映画を撮ってきた、伝説的前衛監督であるとともに、何故か半世紀にわたるタロットカードの研究家でもあって、タロットを利用したセラピーも行っている謎めいた人物である。

『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』(c)SPACE ROCKET NATION. 2014

 じつは、ホドロフスキーの信奉者であるレフンは新作を撮るとき、タロットカードでその行く末を占ってもらっているらしく、『ドライヴ』撮影前にも、『オンリー・ゴッド』の企画時や完成間近にも、ホドロフスキーに何度も教えを乞うていた。撮影の前、レフンが『オンリー・ゴッド』を撮るべきか訊ねると、ホドロフスキーは「撮らなければならない」と発言したと伝えられている。本作では、『オンリー・ゴッド』撮影後に占ってもらった場面が記録されているが、憔悴したレフンが再度、『オンリー・ゴッド』を撮るべきだったのかと訊ねると、ホドロフスキーは、「大きな成功は忘れなさい」と伝える。ホドロフスキー…それは無責任過ぎないだろうか。

 このときのホドロフスキーのアドバイスは、成功を意識せず楽しむことが重要とのことだった。仮に彼のタロットを信じるならば、『オンリー・ゴッド』は、興行的な成功、失敗に関わらず、レフンの作家性にとっては、絶対に必要なものだったという意味なのだろう。そう考えれば、『オンリー・ゴッド』は失敗などではない。「作家」にとって真の「失敗」とは、挑戦しないことなのだ。

芸術家を支える家族の本音

 ホドロフスキーは、本作を撮っているリブにもアドバイスを与えている。それは、「彼を支える存在になりなさい」というものだった。彼女は、本当にそれしかないのか、自分は夫を支え、子どもたちの面倒を見ることでしか自己実現はないのかという悩みにさいなまれていた。本作のタイトル、『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』(ニコラス・ウィンディング・レフンによって監督された私の人生)というのは、「自分の人生を自分自身が生きることができていない」という、夫への痛烈な不満の発露になっている。そんな彼女に、レフンは、「あれ(『オンリー・ゴッド』)は僕たちの作品だよ」と言って慰める。

『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』(c)SPACE ROCKET NATION. 2014

 映画を支えるのは、監督個人だけではない。多くのスタッフや出演者などはもちろん、その裏には、自らの人生を犠牲にして、好きなことをさせ、支えてあげる家族の献身があるのである。本作のように、支える側がそれを積極的に望まないとしても、である。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』
7月8日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋にて2週間限定モーニング&レイトショー
出演:ニコラス・ウィンディング・レフン、ライアン・ゴズリング、クリスティン・スコット・トーマス、アレハンドロ・ホドロフスキー
監督:リブ・コーフィックセン
配給:クロックワークス
2014年/アメリカ/カラー/シネスコ/デジタル上映/ドルビーSRD/59分/英語・デンマーク語
(c)SPACE ROCKET NATION. 2014
公式サイト:http://klockworx.com/movie/m-405261/

■リリース情報
『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』
8月2日(水)発売
発売価格:3,800円(税別)
品番:TCED-3595/POSコード:4562474187701
2014年/アメリカ/カラー/本編約59分/16:9LB/片面1層
音声:英語・デンマーク語ドルビーデジタル5.1chサラウンド/日本語字幕/1枚組
※仕様は変更となる場合がございます。

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