荻野洋一の『LOGAN/ローガン』評:スーパーヒーローが死滅した近未来のディストピア

荻野洋一の『LOGAN/ローガン』評

 ジェームズ・マンゴールド監督は、スーパーヒーロー映画に忠誠を尽くしているとは言いがたい。むしろスーパーヒーローというジャンルそのものの終焉をやりたがっている。マンゴールドが提示するのは、スーパーヒーローが死滅した近未来のディストピアである。マンゴールドは述べる。「ディストピアを予測していると、みんなからよく指摘されるが、はたしてそうだろうか? なぜならば、この映画で描かれている世界は、今のアメリカ社会そのものであるようにしか思えないんだが(笑)」。

 スーパーヒーローの敗走と終焉を跡づけていきながら、わずかな希望の残留をも見せていく。たとえば「X」という代入文字である。もし誰かの墓碑銘や戒名に「X」と書きつけたとしても、それは未知の新しい何かによって置換されうる代入文字である。『X-MEN』第1作の冒頭が、ホロコーストを生きのびるマグニートーの幼年期から始まるように、「X」とは、スクリーンを彩っては消えていったすべてのXメン&Xウィメンたちを指すと同時に、人種差別、階級差別、格差社会、LGBT、思想統制、個人情報の監視、ブラック化する雇用形態など、ありとあらゆる抑圧によって苦しめられている今ここにいる私たち自身にさえ置換可能な、未知なる符牒なのである。

■荻野洋一
番組等映像作品の構成・演出業、映画評論家。WOWOW『リーガ・エスパニョーラ』の演出ほか、テレビ番組等を多数手がける。また、雑誌「NOBODY」「boidマガジン」「キネマ旬報」「映画芸術」「エスクァイア」「スタジオボイス」等に映画評論を寄稿。元「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」編集委員。1996年から2014年まで横浜国立大学で「映像論」講義を受け持った。現在、日本映画プロフェッショナル大賞の選考委員もつとめる。

■公開情報
『LOGAN/ローガン』
全国公開中
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ヒュー・ジャックマン、パトリック・スチュワート
配給:20世紀フォックス映画
(c)2017Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/logan-movie/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる