綾野剛、ストイックな役作りのすごみ 『フランケンシュタインの恋』『武曲 MUKOKU』の演技を読む
現在放送中の連続ドラマ『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ)で、山奥にひっそりと暮らしている怪物・フランケンシュタインを演じている俳優・綾野剛。これまでもさまざまな役柄にふんし、その実力を高く評価されてきた綾野だが、本作では「可愛すぎる」と話題になるほどキュートな怪物を演じている。その一方で、6月3日に公開された映画『武曲 MUKOKU』では、無常さに心をおおわれる剣士を鬼気迫る形相で熱演。実力派俳優だと分かっていても、その振れ幅には驚かされる。
『フランケンシュタインの恋』では、自分が怪物であることを自覚し、人と触れ合うことなくひっそりと山奥で暮らしていたが、二階堂ふみ演じる津軽継実と出会ったことにより、人間としての自分を強く意識するようになる男(怪物)を演じている。放送開始から、綾野演じる“怪物”に対する意見として圧倒的に多かったのが“可愛い”というものだった。
これまでも数々の作品に出演し、『クローズZERO II』でみせたキレキレの不良から、NHKの連続テレビ小説『カーネーション』や、ドラマ『コウノドリ』(TBS)での優しさと悲しみを持った好青年、さらにドラマ『最高の離婚』(フジテレビ)や、映画『日本で一番悪い奴ら』で演じた、だらしないダメ男など、さまざまな顔をみせてきたが、“可愛い”が前面に出るようなキャラクターはあまり思い浮かばず、綾野にとっては新しい一面のように感じられた。もちろん、この“可愛い”には多面的な要素を含んでおり、たどたどしいセリフ回しにも、演じるキャラクターの背景を想像させる余白がふんだんに盛り込まれているだけに、非常に感情移入しやすい。
一方で、映画『武曲 MUKOKU』では、幼少期から父親に「殺す気で突いてみろ!」と厳しく剣を指導されたことにより、ある出来事を巻き起こしてしまった青年・研吾を演じている。酒におぼれ、目には一切の輝きがなく、綾野の表現を借りれば「地獄のような仕立て」の世界をさまよっているような男だ。
立ち姿だけでも情念が渦巻いているのが感じ取れる人物。そこにほとばしる剣の腕が相まって、むかってくる相手を徹底的に拒絶する。対峙した若き俳優・村上虹郎のみずみずしさと、綾野がまとった負の感情がぶつかり合うシーンは、筆舌に尽くしがたい緊張感をもたらす。まさに“地獄絵図”のような状況だ。
もちろん、風吹ジュン演じる三津子や、前田敦子ふんする恋人のカズノなど、研吾を見守ろうとする存在も作品には登場する。しかし、彼女たちと一緒にいる時でさえ、弛緩するような場面は皆無に等しい。全編を通して出し続ける負のオーラには圧倒される。