デレク・シアンフランス監督『光をくれた人』インタビュー
『ブルーバレンタイン』から『光をくれた人』へーー シアンフランス監督が語る「映画で夫婦を描き続ける理由」
「テレビシリーズを含めて4つの大きなプロジェクトが同時に進んでいる」
——あなたのように登場人物の人間性をじっくりと描きこむタイプの作家にとって、作品の尺に制限が比較的ないテレビシリーズの方が、映画よりも魅力的だったりはしないのでしょうか? それでも長編映画にこだわる理由があるとしたら、それは何なのか教えてもらえますか?
シアンフランス:今の僕にとっての最大の悩みを、ズバリ言い当ててくれたね(笑)。まさに今、自分は映画作家として大きな岐路に立っている。最初にはっきり言っておくと、僕は映画館の大スクリーンが好きで、そこで自分の作品が上映されることを諦めることはないよ。僕にとって映画館というのは、ある人にとっての教会のように特別な場所だからね。ただ、これは事実として、過去の2作品において僕が抱いていた野望は、映画という枠を超えてしまっていたんだ。『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』は、映画の尺に収めるために1時間10分の映像をカットしなければいけなかった。『光をくれた人』も長編映画のフォーマットにするために、第3幕だけで45シーンもカットしなければいけなかった。最近の映画の傾向に、僕は少し違和感を抱いている。長い尺の映画はスーパーヒーローものやフランチャイズものだけに許されていて、人間ドラマの大作を作りたくても、それを劇場で上映してもらうことがどんどん難しくなっているんだ。
——ということは、今後はテレビシリーズに進出することもあり得ると?
シアンフランス:実はもう、二つのテレビシリーズに取りかかっているんだ。一つは尺が12時間ある映画で、もう一つは尺が6時間の映画。僕としては、テレビシリーズに参入するというより、思い通りの尺の映画を撮れる機会を得たと考えている。最近のテレビシリーズの素晴らしい点は、過去の映画界で採用されていたような壮大なアイデアを、ちゃんと実現するだけのキャパシティがあるところだ。映画では、タイツやマント姿の登場人物が派手に振る舞っていないと、なかなか実現しないようなアイデアがね。その一方で、現在製作途中の映画もある。でも膨大な量を撮っていて、編集室に入って作品を去勢したくないから完成を先延ばしにしているんだ。もう一つ、数パートに分かれた大作映画のアイデアもあるんだけど、これはまだデベロップメント中といったところだね。
——もし可能でしたら、具体的に作品名を教えてもらえますか?
シアンフランス:19世紀のアメリカを舞台にコマンチェ族の戦いを描く“Empire of the Summer Moon”、ピエロについて妻と脚本を書いた“A Cotton Candy Autopsy”、ワリー・ラムの原作を映像化した“I Know This Much Is True”、この作品にはマーク・ラファロの出演が決まっている。それと、10年前からずっと作りたかった“Muscle”という作品のプロジェクトがあって、これがやっと実現できそうなんだ。だから、テレビシリーズを含めて4つの大きなプロジェクトが同時に進んでいる。
——うわぁ、大変ですね(笑)。
シアンフランス:どうなるか、まだわからないところもあるんだけどね。どの作品を最初に完成させることができるか、まるでレースみたいな感じだよ(笑)。
(取材・文=宇野維正)
■公開情報
『光をくれた人』
5月26日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
監督:デレク・シアンフランス
原作:「海を照らす光」(M・L・ステッドマン/古屋美登里訳/早川書房)
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム、KADOKAWA、朝日新聞社
2016/アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド/133分/スコープサイズ/5.1ch/G
(c)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
公式サイト:hikariwokuretahito.com