水野美紀、病みつきになる狂気の演技! 『奪い愛、冬』は“スゴイ”ドラマだった
3月3日に最終回を迎えたドラマ『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)は、スゴイ作品だった。“スゴイ”なんていう曖昧な表記をしたのは、クセの強い料理店を万人にオススメするのは、ちょっぴり気が引ける感覚に近い。だが、そんな好みの分かれる店でも「スゴイから、1回食べてみて」と紹介したくなるのには、そこでしか味わえないものがあるから。そして、このドラマでの一押しは、水野美紀という女優だった。
水野が演じたのは、主人公・光(倉科カナ)に、夫・信(大谷亮平)を奪われてしまう妻・蘭の役。とはいえ、先に「脚が不自由になった」という嘘をついて、光から信を引き裂いたのは蘭のほう。信をつなぎとめるためなら、なりふり構わずに行動する蘭。放送されるたびに、その怪演っぷりが話題になっていた。
最終回でも、こちらの期待を裏切らない奇行のオンパレード。脚の嘘が一同の前でバレると、杖を投げつけて全力ダッシュ! 逃亡したのかと思いきや、直ぐ近くの柱の影に隠れて「あなたを愛しているからよぉぉぉぉ」と叫び、柱の影からコチラをチラッ。
「このときね、もう小学生になったころの気持ちです」最終回では、水野と大谷、そして脚本を手掛けた鈴木おさむが映像を見ながら、まさかの副音声で座談会を披露するというサプライズが用意されており、水野が蘭を演じているときの気持ちを赤裸々に語った。その語り口調もサバサバしていて実に痛快。
光と蘭が、どちらの愛が重いのかと口論するシーンは「子どものケンカですよね」とバッサリ。倉科と水野が笑いをこらえながら演じていたとまで、暴露するのだった。脚が動くことを強調するために、足踏みをしてみせたり、「私は謝らない」と腕組みをしながらその場であぐらをかいてしまう所作も、水野が自分で考えて行動していたという。
大谷も「蘭さん、たまにかわいい動きをするんです」と話し、鈴木も「水野さんは舞台を結構やられているから、表現がわかりやすい」と見解を述べると「水野美紀の可愛さが、ちょっと出ちゃってますね」と笑いを誘っていた。
また、蘭のロングヘアについては、水野から「髪を長くしておくと、どっかで切ったりできるかもしれない」と提案があったのだそう。そのアイデアから、信を引き留めるために蘭がハサミで髪を切り刻むシーンにつながった、と鈴木が真面目に制作秘話を明かすも、蘭が自分で切っておいて「あぁぁぁぁぁ、切っちゃったぁぁぁぁ」と大騒ぎする姿を見ると思わず吹き出す始末。自分で、脚本を書いているのに!「台本通りですよ、これ(笑)」と切り返す水野もさすがだ。
その後も、水野の狂気じみた行動が繰り広げられるたびに、3人で大爆笑する素の掛け合いが、微笑ましかった。近年、SNSで実況しながらドラマを楽しむ視聴者が増えているが、作り手がその輪に加わったような雰囲気で新しさを感じた。
もともと清純派として、キャリアをスタートさせた水野。代表作であるドラマ『踊る大捜査線』シリーズでは、清楚な美女を演じ、そのピュアな印象はそのまま彼女のパーソナルイメージとなっていた。だが、彼女の本性は、『私の中のおっさん』というタイトルのエッセイを発行するほどの男前キャラ。演劇ユニット『プロペラ犬』を主宰し、舞台の脚本・演出・出演を手がけ、マルチな才能を発揮している。その視点があるからこそ、ドラマの中で蘭が何を求められるのかを理解し、体当たりで演じられたのだろう。