木村拓哉主演『A LIFE 〜愛しき人〜』初回レビュー 鍵を握るのは得体の知れない浅野忠信?
今年に入ってから、つまりSMAP解散の期日であった昨年の大晦日を過ぎてから、まるで「解禁!」とばかりに番宣のためのバラエティ番組出演をいつになく精力的にこなしていた木村拓哉。そんな時、本作『A LIFE 〜愛しき人〜』のダイジェストシーンで必ず流れていたのは、Oasisの代表曲「Don’t Look Back In Anger」だった。まるで現在の木村拓哉の感情を代弁しているようなタイトルを持つその曲は、しかし、本編では使用されることはなかった。初回オンエアで明らかになった主題歌は、B’zが本作のために書き下ろした曲、その名も「Still Alive」。キムタク神話は「まだ生きている」か? もちろん、まだ生きている。
竹内結子、浅野忠信、及川光博、松山ケンイチ、木村文乃……通常のドラマや映画だったら主演クラスの役者たちがズラリと脇を固めた出演者たち。日本映画界もメジャー/インディー問わず作品が充実していて、BS局だけでなくAmazonやNetflixのローカルコンテンツも台頭していて、引く手あまたの一部の役者の間では「民放ドラマ離れ」が起こっていると言われているこのご時勢、こんな贅沢なキャスティングが連ドラで可能なのは、木村拓哉主演ドラマか坂元裕二脚本ドラマくらいだろう。
中でも、20代前半の頃から日本映画界において特別な役者であり続け、『マイティー・ソー』や『沈黙-サイレンス-』をはじめとするハリウッド大作でも重要な役を与えられてきた浅野忠信が、これまでほとんど縁のなかった民放の連ドラに出演を決めたことは驚きだった。浅野忠信の役どころは、竹内結子演じる妻(院長の娘)をめぐって、木村拓哉演じる主人公の外科医・沖田と過去に確執がある外科医兼副院長・壇上。『白い巨塔』の財前と里見、『振り返れば奴がいる』の司馬と石川。病院を舞台にした日本の連ドラの名作は、伝統的に主人公とそのライバルの対比を軸にストーリーが展開してきたが、日本のテレビ界をこの20年間背負ってきた木村拓哉に拮抗し得る存在として、そこに同じように日本映画界をこの20年間背負ってきた同世代の浅野忠信をキャスティングできたことは、本作の企画段階における快挙と言えるだろう。
沖田(木村拓哉)と壇上(浅野忠信)は小学生の頃からの幼馴染みの関係。昔から勉強もスポーツもできた壇上に対して、沖田は「ガンプラを作るのだけは俺の方が上手かった」と振り返ってみせる。外科医として重要な資質である手先の器用さだけは幼少期から上だったことを、ふとした会話でさりげなく示してみせるセリフ。また、沖田、壇上、壇上の妻(竹内結子)というどう考えてもヘビーになりそうな三角関係とは別に、沖田と若手外科医・井川(松山ケンイチ)とオペナース柴田(木村文乃)というもう一つのライトな三角関係を配置しているのも上手い。橋部敦子によるオリジナルの脚本は、油断してたら渋滞しそうな個性の強いキャラクターの面々を、鮮やかな手つきで交通整理していく。
そんなセリフの細部も人物配置も抜群の安定感をみせる本作において、木村拓哉もまた、これぞ「ザ・キムタク」と言うべき王道を貫いてみせる。「木村拓哉がザ・キムタクなのは別に今に始まったことじゃないのでは?」という声もあるかもしれないが、連ドラとして『HERO』第二期を除く2つの近作『安堂ロイド』と『アイムホーム』は、明らかに新たなキムタク像に向けてのトライアルと言うべき作品だった。SMAPという木村拓哉を木村拓哉たらしめていた「安定した基盤」がなくなってしまったことが、本作で久々の王道回帰を促したという見方は、決して見当はずれなものではないだろう。