『ひとりぼっちの幸せ』ハンネス・ホルム監督インタビュー
『幸せなひとりぼっち』監督が語る、スウェーデン映画事情「ジブリ作品やゴジラは親しまれている」
12月17日から公開されたスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』。本作は、累計部数200万部超えの大ベストセラーを映画化したヒューマンドラマ。いつも不機嫌な頑固者の老人・オーヴェが、隣に引っ越してきたパネルヴァ一家との出会いをきっかけに、人生を見つめ直していく様子を描く。本国で興行成績5週連続1位を記録、さらにはフランス、アメリカ、ギリシャなどの世界17カ国で公開されることが決定している。リアルサウンド映画部では、監督・脚本を手掛けたハンネス・ホルム監督にインタビュー。作品のテーマや映画制作に対するスタンスを語ってもらった。
「自分が反応できるものがないと映画は撮れない」
ーー原作のどんなところに惹かれて、監督を引き受けようと思ったのですか?
ハンネス・ホルム(以下、ホルム):初めにプロデューサーから話を聞いた時は、正直つまらなそうだなと思って、一度断っているんだ。だって、「頑固で気性の荒いお爺さんの話」と聞いても、興味が湧かないだろう? でもプロデューサーから、原作を一度読んで改めて考えてくれないか、と言われたから試してみたんだ。そしたら、一晩で読み切ってしまうほど夢中になってしまったよ。
ーーその惹かれた部分を具体的に言うと?
ホルム:そうだな……主人公のオーヴェが頑固者の老人になってしまった理由が、明確に描かれていたところかな。表面的に捉えるとありふれたストーリーなんだけど、登場人物たちの生い立ちや関係性が丁寧に描かれているところに興味が湧いた。映画にするのであれば、特にオーヴェと妻のソーニャのラブストーリーが重要だと感じたよ。アクション映画やバイオレンス系の映画がたくさん作られている昨今、この作品のようなクラシックなラブストーリーを表現してみたかったんだ。
ーー興味が湧かないと監督は引き受けない、と。
ホルム:当然だね。と言っても、これまでは自分の脚本を中心に映画を撮ってきたから、原作ありきで映画を撮るのはあまりないことだった。自分が面白いと感じるか、なにか反応できるものがないと映画は撮れない。でも、そういう惹かれる要素さえあれば、時代や市場の流行を無視してでも作ってしまうね。
ーー原作は200万部を超えるベストセラーだそうですね。
ホルム:これは持論だが、ベストセラーを映画化すると大体は失敗する。熱心な原作ファンは、自分の頭の中に描いた理想の映画じゃないと、不満を漏らすからね。でも今回の場合は、原作ファンが観ても、原作から抜けている箇所がすぐにわからないくらい成功している。それは、すごくラッキーなことだと思っているよ。
ーー劇中では、社会福祉を担当しているスタッフと、オーヴェを筆頭とする地域住民との対立が印象的でした。本作を制作するにあたり、スウェーデンの現状を風刺する意図はありましたか?
ホルム:スウェーデンも、他国と同じように色々な面で変革期を迎えている。劇中に出てくる男は、社会福祉の仕事を請け負っている企業のスタッフなんだ。かつては国が行政として行っていた仕事を企業が管理するようになり、劇中で描かれているような問題が実際にスウェーデンで起こるようになってきた。行政とは違って、企業は利益優先で動くからね。
ーースウェーデンで身近な問題なんですね。
ホルム:歴史的観点から言うと、スウェーデンは250年以上も戦争を経験しておらず、自分たちは争いとは無縁だと思ってノンキに暮らしている。世界で色んなことが起きていても、どこか自分とは無関係だと思っているんだ。その反面、最近は行政が機能しないことが明らかになって、問題視されている。だからこそ、身近にあるコミュニティや隣人との付き合いといった、人間同士の繋がりを見直すことをテーマにしたんだ。
ーーオーヴェの父からオーヴェへ、オーヴェから隣人の子供へ、古い世代から新しい世代へ知識や行動が受け継がれていく描写も意図的に描かれていたと感じました。
ホルム:僕は、人生経験豊富な老人たちと新しいアイディアを持つ若者たちは、もっと交流するべきだと思っている。次の世代に伝わるべきものがある、というのはこの映画の大事な要素なんだ。オーヴェの好きな車種が、父親と同じく「サーブ」であったり、パルヴァネの娘がオーヴェの行動を真似するなど、行動自体はシンプルなものだが、知恵や考え方が伝わっていることを印象付ける装置としては、重要な役割を果たしている。