行定勲ら5人の監督は“ロマンポルノ”をどう蘇らせたか? 松江哲明×モルモット吉田が語り合う

松江哲明×モルモット吉田「ロマンポルノ」対談

『変態だ』の魔法と、『ジムノペディに乱れる』『風に濡れた女』の技術

『風に濡れた女』予告編

−−これだけエロが溢れてしまったいまの時代に観客は何を求めてロマンポルノを観に行くのでしょうか。

吉田:映画の中で、日常や恋愛、食を丁寧に描くのと同じぐらい性も同じボルテージで描いてほしいという思いが僕にはありますね。日本映画の乳首死守問題と言われたりすることがありますが、僕は見せないなら見せない演出をすればいいと思うんですよ。そこを工夫せずに不自然な手の隠し方とかをするから気になるわけで。例えば1975年の黒木和雄監督作品『祭りの準備』で竹下景子が脱いでいるシーンがあるんですが、カットを割っているので、脱いでいるのにむしろ(代わりの女優の)吹替えのように見えているんですよね。でも、それはあくまで演出と編集を優先したからそうなったので、今だったらこの女優は脱いだから全身を映すという発想にしかならないと思うんです。過剰に見せるか、過剰に見せないかになるからつまらない。ロマンポルノを名の知られたベテラン監督たちで第1弾が作られて良かったなと思うのは、他の描写と性描写をフラットに描いてくれたことですね。

松江:例えば『テレクラキャノンボール』も、AVをたくさん観ている人からすると、ハマジムが制作する変化球のひとつじゃないですか。それが背景をまったく知らない人が観ると、バラエティ番組の進化系として観ちゃったり、ドキュメンタリー映画としてすごいという評価になる。知らない人が観るだけで、AVが映画にもなるんですよ。それはかつてのロマンポルノが持っていものでもあり、現在まで生き残った理由のひとつですよね。そういう意味では、今回の5作品は“映画”として、普通に面白いんですよ。実は、そこが不満でもあり……。今回の企画が社会現象になったり、文化になり得る力があるかというと疑問があるんです。僕は今の時代に復活する以上は『テレキャノ』や『恋の渦』といった近年の成人向けのエンターテイメントをライバル視して欲しかったな、とも思います。

吉田:今回の新作を3本立ては無理にしても2本立てでやるとかね。今回も2本続けて喋りましたけど、できるだけ全部観て比較してもらいたいですね。

松江:みんなエロをそのまま観ることにうんざりしていると思うんですよね。AVが隠れて観るものではなくて、生活の一部と言ってもいいぐらいに観るのが容易で当たり前になってしまった。だから、エロを変わったアングルから観たいという人にとってはいいと思うんです。

吉田:ロマンポルノではありませんが、現在公開されている『変態だ』や『雨にゆれる女』などもセットで観ると、“エロ”の表現がどこまでできるのかという見比べができるんじゃないですか?

松江:『変態だ』が最近見たエロを扱う映画で一番面白かったです。まるでロマンポルノに対抗するピンク映画のような存在感があって。『変態だ』には制約を意識して作っている感じがするんです。アフレコとモノクロの質感がいい。縛りがあるからこそ、『変態だ』には映画の魔法がかかっているんですよね。でも、今回のロマンポルノには“技術”はあるけど、魔法がないと思いました。

吉田:『変態だ』は新しいことはなんにもやっていないんですよ。にも関わらず、それを愚直にやっているのが面白い。だから、『変態だ』の魔法と、『ジムノペディに乱れる』『風に濡れた女』の技術、どちらを魅力に感じるかは人によって大きく分かれるでしょうね。

松江:そうそう。『変態だ』に怒る人は絶対いるとは思う。でも、オールナイトの3本目とかであったら、お客さんがめちゃめちゃ喜ぶものだと思んですよ(笑)。ある状況によっては最高の1本になってしまう可能性もある。

吉田:僕も東京国際映画祭のオールナイトで松江監督の『俺たち文化系プロレスDDT』と、手塚眞監督の『星くず兄弟の新たな伝説』の後で3本目に『変態だ』を観たから、むちゃくちゃ面白かったけど、単独で昼間みたらどうなんだろう(笑)。

松江:ロマンポルノって撮影所が培ってきた確かな“技術”があるわけですけど、それに対抗するものとしてピンク映画のゲリラ手法などがあったわけですよね。滝田洋二郎監督や若松孝二監督の作品にはそれがあって。『変態だ』にはそれが脈々と受け継がれている感じがするんです。

吉田:『変態だ』はロマンポルノじゃなくて、初期のピンク映画のテイストなんですよね。ロマンポルノの開始当初は先行のピンク映画と比較されたわけですけど、それと同じとは言えないでしょうが、『変態だ』とロマンポルノリブートを続けて観ると、エロをどう映画で描くかということの視点の違いを感じることができると思います。

松江:『変態だ』は今年の問題作だと思いますよ。数年前、どんな方法で自分は作ればいいんだろうって考えた時に、タランティーノの『グラインドハウス』に救われたんです。自分の好きなことをそのままやればいいんだと。それと同じものを『変態だ』にも感じたんですよね。映画に“魔法”がかかっていたから。

吉田:昔の若松孝二監督のピンク映画のような内容なんですよね。『胎児が密漁する時』(66)とか『狂走情死考』(69)みたいな。

松江:でも、みうらじゅんさんも安齋監督もきっと若松映画に思い入れはないですよ(笑)。もしかしたら映画も見ていないかもしれない。でも、不思議と似ているところがあるんですよね。だから映画作りって面白いんですよ。

(取材・構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督を山下敦弘とともに務める。2017年1月6日より『山田孝之のカンヌ映画祭』がテレビ東京・テレビ大阪(毎週金曜 深0:52~1:23)にて放送予定。

■モルモット吉田
1978年生まれ。映画評論家。「シナリオ」「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿。

■公開情報
『ジムノペディに乱れる』
全国順次公開中
監督:行定勲
脚本:行定勲、堀泉杏
出演:板尾創路、芦那すみれ、岡村いずみ、田山由起、田嶋真弓、木嶋のりこ、西野翔、風祭ゆき
2016/日本/83分/5.1ch/スコープサイズ/カラー/デジタル/R18+
(c)2016日活

『風に濡れた女』
12月17日(土)より全国公開
間宮夕貴、永岡佑、テイ龍進、鈴木美智子、中谷仁美、加藤貴宏 
赤木悠真、谷戸亮太、池村匡紀、前田峻輔、大西輝卓
監督・脚本:塩田明彦
2016/日本/78分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル/R18+
(c)2016日活
公式サイト:www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/

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