行定勲ら5人の監督は“ロマンポルノ”をどう蘇らせたか? 松江哲明×モルモット吉田が語り合う

松江哲明×モルモット吉田「ロマンポルノ」対談

低予算の中でも表現される行定監督の手腕

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−−低予算にも関わらず、本作は画面の豊さに溢れていると感じました。

吉田:行定監督は室内を撮るのが上手いですよね。奇をてらった撮り方をしているわけではないんですけど、平凡な作りの家を独特の空間の活かし方で魅力的に映し出すんです。『ひまわり』(00)、『贅沢な骨』(01)などの初期作を観たとき、何の個性もない狭い部屋をこんなに面白く撮れる人がいるんだなとびっくりしました。それはこの映画の主人公が住む米軍ハウスみたいな家や、助監督が主催するパーティのシーンでもそうですね。

松江:ここにカメラを置いて、人を並べれば、部屋の全体像がよく分かる、という撮り方なんですよね。なのに、いかにも凝った画を撮っています感が行定監督の映画にはないのがすごい。

吉田:この映画は低予算映画のお手本みたいなところがありますね。何でもない無個性な道を撮るときも、歩道橋を効果的に使ったり、住宅地で逃げ惑う中、ゴミ箱にいきなりダイブしたり。そんなのは基本だとも言えるでしょうが、最近は何の工夫も凝らしていない低予算映画を見ることが多いので、新鮮に感じました。

松江:観ていて面白いと思ったのは、観ているものがどこまで現実か分からないなというところ。古谷の1週間があまりにも都合が良すぎるので。奥さんへの想いを他の女性たちに古谷はぶつけているわけだけど、あれは全部彼の妄想と捉えることもできる。

吉田:そう解釈すると面白いですね。

松江:古谷が意識の戻らない奥さんの見舞いに行って、病院の看護師さんとやっちゃうところなんてまさにそう(笑)。周りが止めに入るから、彼の妄想じゃなくて現実なんだと分かるけど。行定監督の映画に共通するテーマなんですが、映画として描かれた時点で、ひとつの“ファンタジー”として描いているんですよね。その大胆さこそが映画だという強い意図を感じます。

吉田:毎回入りますよね。わざと画面を壊すというか、ちょっと変な描写を入れる。でも、それで映画が破綻するわけではない。

松江:行定映画には“停滞”がないんですよね。他の監督の作品だと、何かが起きそうなストーリーだったり仕掛けを施して、そこで一旦止まってしまう。でも、行定監督の映画は止まらないんです。

−−リブート企画の第1弾ということもあり、5本の中では一番観やすいのではないでしょうか。

吉田:そうですね。かつてのロマンポルノを意識して観るというよりは、90年代後半〜2000年代頭にデビューした監督たちの原点回帰として観ると面白いのではないでしょうか。

松江:でも、僕は「10分間に1回の濡れ場がある」というロマンポルノのルールは知っていた方がいいと思うんですよね。この女優は脱ぐんだなと思いながら観るのも一興というか。

吉田:もちろん、フォーマットは知っておいた方がいいと思うんですけど、過去のロマンポルノとの比較で観る必要はないかなと思いますね。

『風に濡れた女』(監督:塩田明彦 出演:間宮夕貴、永岡佑)

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松江:そういう意味では『風に濡れた女』はまさに、今までのロマンポルノのオマージュみたいな映画ですよね。

吉田:神代辰巳監督の『恋人たちは濡れた』(73)の続編のような始まり方です。自転車に乗った女が海に突っ込んで、陸に上がってくるといきなり見知らぬ男の前で裸になるという突拍子もなさ。この調子で全篇進むと神代を意識しすぎた作品になるかと思ったら、塩田監督の映画に引き寄せていく。ロマンポルノが好きな層や、ミニシアターに足を運ぶ観客なら、かなり面白く観られると思います。

松江:神代オマージュが全快ですよね。 アクロバティックなセックスとか、肩車でかついだ後に落とすアクションとか。観ていて面白くて仕方ないんですが、 ここまでやりたい放題でいいのか、と(笑)

吉田:塩田監督はそのあたりを単なるオマージュというより、一昨年に発売された著書『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』(イーストプレス刊)の実践編として撮っていますね。あの本ではカサヴェテスや神代について分析されていましたけど、そこで分析していたことがこの映画で応用されています。

松江:“コメディ”なのがいいですよね。セックスってこういうカラッとした明るさが必要なんだなと。女性が主導となって男に新しい生きる道を教える、そこが神代作品っぽいんですよね。だから、この作品で「ロマンポルノって面白い!」って目覚めるきっかけになってしまう可能性はありますね。

吉田:塩田監督は脚本家・大和屋竺さんの本にも参加されていましたが、大和屋さんの匂いもこの映画にはありますね。『荒野のダッチワイフ』(67)や『処女ゲバゲバ』(69)を思わせるシュールな笑いが入ってくる。それが無理やり入れたのではなく、塩田監督が本来持っていた資質が加味された感じがあって、上手く作品に結実したと思いますね。こういった企画がなければ今の塩田監督がそういう面を出す機会がなかったと思うので、ベテランの監督たちに“場”を提供するというだけでも意義があったと思います。

松江:塩田監督のデビュー作『露出狂の女』(96)がすごく好きな作品なんですが、『月光の囁き』(99)など初期作品を思い出しました。

吉田:行定監督もそうですが、商業監督として地位を築いた監督たちのデビュー作に近い自由な雰囲気の作品を、今観ることができるとは思いもよらなかったです。

−−本作では主演の間宮夕貴さんの存在感が強烈ですね。

吉田:間宮さんの野獣感はいいですよね。彼女にロックオンされたら、絶対に逃れられない感じがある。全身からにじみ出る“肉体感”がとにかくすごい。

松江:人間賛歌みたいな感じがしますよね。こんなことであんた悩んでいるの! て言われている気がしてくる(笑)。

吉田:冒頭、世捨て人として女を断った男(永岡佑)がリヤカーを引いているところに後ろから飛び乗ついてくる姿なんて、体のしなやかさがすごい。

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