江口洋介、『ひとつ屋根の下』長男から“父親”になれるかーー『はじめまして〜』の役どころ

 『はじめまして、愛しています。』第四話では「赤ちゃん返り」をしたハジメ(横山歩)を、梅田美奈(尾野真千子)が母親として“産み直す”姿が描かれた。

 「試し行動」が終わったハジメだったが、今度は「赤ちゃん返り」を起こす。四六時中付きまとわれ、おんぶをしたり、おっぱいをねだられてもしぶとく付き合う美奈。児童相談所職員の堂本真知(余貴美子)から、実の親に甘えられれなかった反動だと言われ、ハジメが満たされるまで赤ん坊として扱う美奈だったが、少しずつ疲労が蓄積していく。

 虐待されていた5歳の子どもの幼児退行に付き合うという設定を通して描かれるのは、子育ての再現だ。美奈はハジメが生まれるところからやり直すために疑似的な出産を再現する。ハジメは(赤ん坊のように)声をあげて泣き、やがて「お母さん」、「お父さん」とはじめて言葉を発するようになる。同時に美奈もまた、自分が母親なのだと実感するようになっていく。本作のテーマがすべて集約された、前半のクライマックスとでも言うような名場面だった。
 
 一方、今後、より重要になってきそうなのが、ハジメが一度聴いた曲を一回で弾くことができるというピアノの才能をめぐる問題だ。ピアノの才能の気づいた美奈の父親・追川真実(藤竜也)が、高価なスピーカーをハジメに送ってくる。しかし、音楽の才能がないことに劣等感を抱いている美奈は、父の振る舞いに苛立つ。音楽の才能をめぐる美奈と真実の、娘と父の葛藤は、今までにも大きく扱われてきた。ハジメがピアノの才能を開花させることが、二人の和解の鍵となるのか、より根深い対立を呼び起こすのかは注目すべきところだろう。その意味でも、「試し行動」や「赤ちゃん返り」といったショッキングな展開が終わったこれからの展開こそが、遊川和彦が本当に描きたいドラマなのかもしれない。

 最後に触れておきたいのは、夫の信次を演じる江口洋介のことだ。出世作となった坂元裕二脚本の『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)以降、野島伸司脚本の『101回目のプロポーズ』、『愛という名のもとに』、『ひとつ屋根の下』といったフジテレビ系の高視聴率ドラマに出演することで人気俳優として不動の地位を築いてきた。その時に培った、一見、軽薄だが仲間や家族を大切に思っている熱い男というイメージは江口洋介の演じる役柄のイメージとなっている。本作の信次にもそのイメージは引き継がれており、『ひとつ屋根の下』で演じた、家族をまとめる長男の柏木達也の姿に重ねてみている人も多い。

 ただ、ここが遊川和彦と野島伸司の決定的な違いなのだか、信次のおおらかで楽天的な性格は、ハジメの幼児退行で神経が過敏になっている美奈の心を傷付けてしまう。速水もこみちが演じる次男の梅田巧もそうなのだが、こういう楽天的な男の鬱陶しさを描かせたら遊川はうまい。もちろん、信次は、自分のことは内緒にして、悩んでいる美奈に対して堂本が相談に乗るように頼むようなアフターフォローができる繊細な男だということは繰り返し描いているのだが、過去に江口が演じた同じた役と較べても、信次の方が何倍も鬱陶しく見える。

 そんな明るい信次が、母親のこととなると冷たい対応になってしまうことが現在もっとも気になるポイントだ。母との確執の理由が露わとなった時に、江口がどのような演技を見せるのか、楽しみである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『はじめまして、愛しています。』
テレビ朝日系
毎週木曜日夜9時〜
出演:尾野真千子、江口洋介、横山歩ほか
脚本:遊川和彦
公式サイトhttp://www.tv-asahi.co.jp/hajimemashite/

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