門間雄介の「日本映画を更新する人たち」 第5回
『日本で一番悪い奴ら』『ケンとカズ』『クズとブスとゲス』 門間雄介が“暴力”を題材にした映画を考察
話は少し逸れるかもしれないが、暴力を扱った映画が俳優たちの魅力を十二分に引きだすことが多いのはなぜだろう? いまこうして作られている、暴力に関連したたくさんの映画のルーツを辿ると、2010年の『冷たい熱帯魚』に行きつく。そこで園子温監督が吹越満やでんでんと言ったバイプレイヤーたちのポテンシャルを存分に引きだしたように、この手の作品はキャスティングの不自由さを逆手に取って、未知の役者を世に知らしめたり、著名な俳優のパブリックイメージを覆したりすることができる。白石が『凶悪』で起用し、是枝裕和監督作『海よりもまだ深く』や西川美和監督作『永い言い訳』など、いまやほうぼうで強い印象を残す松岡依都美は前者の例だし、後者の例は『ディストラクション・ベイビーズ』の柳楽優弥、『ヒメアノ~ル』の森田剛、そして『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛などだ。『ケンとカズ』を観た後、役者たちの顔がいつまでも脳裏から離れないのは、この映画がその力を存分に生かすことに成功しているからだ。
1986年生まれの奥田庸介監督による『クズとブスとゲス』はタイトル同様に内容もえげつない。主人公は女を薬物で拉致し、裸の写真をネタにしてゆすりで生計を立てる男。だがヤクザの女に手を出した彼は、落とし前として大金の支払いを要求され、罠にはめた女をヤクザに売り飛ばしてしまう。やがて純情愚直な女の恋人をも巻き込む、この卑劣な暴力映画の大きな特色は、全アクションシーンがガチで、流れる血もすべて本物だというところだ。みずから主人公を演じた奥田は、撮影中にビール瓶で頭を割り、12針も縫う大けがを負ったという。
こんなのは映画でも何でもない。ただの醜悪な見世物じゃないか。率直な感想は大きく否に傾いている。でもそこに幾ばくかの誠実さを見るとしたら、この映画が奥田自身の虚空に手を伸ばすもがきそのものでもあるからだ。2011年、『東京プレイボーイクラブ』で商業映画デビューを飾りながら、その後、奥田は思うように映画が撮れずにいた。彼は言う。
「この映画をたとえるならば、15の夜に行き先も分からぬまま、暗い夜の帳の中を盗んだバイクで走り出すかわりに、28の夏に生き方も分からぬまま、辛く無意味な人生の途中で怒った奥田が暴れだす、といった感じだと言ったら分かりやすいでしょうか。最早映画とは呼べないぐらい個人的なシロモノなのですが、薄汚く自己正当化しますと、今のこの日本文化の有り様だからこそこんな映画があっても良いと思います」(『クズとブスとゲス』プレス資料より)
不器用な映画だが、「お前不器用なんだよ!」と頭をはたきたくなる、かわいげもここにはある。捨て身の一撃は誰かの脳天に響くだろうか。
■門間雄介
編集者/ライター。「BRUTUS」「CREA」「DIME」「ELLE」「Harper's BAZAAR」「POPEYE」などに執筆。
編集・構成を行った「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト 上」が発売中。Twitter
■公開情報
『日本で一番悪い奴ら』
全国公開中
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
音楽:安川午朗
原作:稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
出演:綾野剛、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、矢吹春奈、瀧内公美、田中隆三、みのすけ、中村倫也、勝矢、斎藤歩、青木崇高、木下隆行(TKO)、音尾琢真、ピエール瀧、中村獅童
配給:東映・日活
(c)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
公式サイト:www.nichiwaru.com
『ケンとカズ』
7月30日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本・編集:小路紘史
出演:カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節、髙野春樹、江原大介、杉山拓也
(c)「ケンとカズ」製作委員会
公式サイト:www.ken-kazu.com
『クズとブスとゲス』
7月30日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本・主演:奥田庸介
出演:板谷俊谷、岩田恵里、大西能彰、カトウシンスケ、芦川誠
配給:アムモ98
(c)2015 映画蛮族
公式サイト:kuzutobusutoges.com