黒木華、『重版出来!』に見る“芝居の引き出し” いかにしてコミカルな役柄をものにした?

 これまで映画『小さいおうち』や『母と暮せば』、ドラマ『天皇の料理番』など、やや古風で純日本的な女性を演じることが多かった女優・黒木華。そんな彼女が、現在放送中の『重版出来!』では、元柔道オリンピック代表候補選手だったが、怪我により夢破れ、立派な漫画編集者を目指す体育会系の元気で闊達な女性を演じている。“演技派女優がみせた新たな一面”と語られることが多いが、映画関係者や共演者の話を聞いていくと、たどり着くべくしてたどり着いた役柄だったのかもしれない……と感じさせる。いま最も注目されている若手実力派女優・黒木の魅力に迫る。

 これまでさまざまな作品に出演してきた黒木だが、彼女の女優としてのハマり役といえば「純日本的」や「昭和的」な役柄と言えるだろう。山田洋次監督とタッグを組んだ『小さいおうち』や『母と暮せば』、宮内省で主厨長を務めた秋山徳蔵の生涯を描いたドラマ『天皇の料理番』での俊子など、黒木が演じた「純日本的」や「昭和的」な女性は非常に高い評価を得た。

 そんな黒木が、現在放送中の連続ドラマ『重版出来!』では、柔道の日本代表候補だったが、怪我で選手生命を絶たれ、漫画編集者として新たな夢にまい進する体育会系女子・黒沢心を演じている。キャストが発表されたときは、多くの人が“意外”と感じたことだろう。背筋をピンと伸ばし、大きな声でハキハキと発言し“熱”のある新入社員=黒木と結びついた人は少なかったのではないか……。しかし劇中、黒木が息を吹き込んだ黒沢心は見事に画面で躍動し、放送後の評判も好意的なものが多かった。明るく元気でコミカルな役柄をものにしている。

 一見すると“奇をてらったキャスティング”かと思われるが、これまで黒木と共演した俳優や、クリエイターの人々の発言をひも解くと“意外”ではなく“満を持してたどり着いた”とも解釈できる。『シャニダールの花』でダブル主演を務めた綾野剛は、黒木の“演技の振り幅の広さ”に賛辞を送っている。また、岩井俊二監督が執筆した小説『リップヴァンウィンクルの花嫁』の主人公・皆川七海は、黒木をイメージして書いたと語っており、実際、黒木主演で映画化された。本作で黒木は、序盤は地味ながらも、徐々に力強く変貌していく女性を、まったく違和感なく表現し、岩井監督の“振り幅の広いキャラクター”を存分に演じきった。

 そして現在放送中の『重版出来!』の那須田淳プロデューサーは黒木をキャスティングした理由について「『天皇の料理番』での彼女の演技から目が離せなかった。これだけ芝居の引き出しがたくさんある女優さんなので、彼女が一般的に持たれているイメージと違う役をやったら非常に面白いだろうと思った」と語っている。その言葉の裏には、これまでの作品で黒木が培ってきた演技を踏まえ、決して“賭け”ではなく“勝算”がしっかりと見えていたのだろう。

 俳優がハマり役を得てしまうと、似たような役ばかり依頼され、役柄の幅が狭まってしまうのでは……と危惧する声を聞くことがある。黒木についても、『小さいおうち』や『天皇の料理番』でみせた演技は非常に説得力があり“古風で昭和的”な女性が黒木のハマり役であることは間違いない。山田監督は「割烹着を着せたら日本一」と賞賛し、共演した松たか子も「北国から出てきた割烹着が似合うタキちゃんという役にピッタリだった」とインタビューで述懐している。

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