SW研究第一人者が語る、新作への期待
ここから新しい時代が始まるーー河原一久氏が語る『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の展望
「『SW』が生み出した「絆」こそが、『SW』文化の土台になっている」
――ただ、正直なところ、古参のファンに比べ、ほかの世代の熱量は、今のところそれほど高くないように感じます。
河原:それは、ある程度しょうがないです。だって、過去作をリアルタイムで観てないんだから。そういった意味でいうと、やはり『SW』はどのように特別で、どう世の中を変えてきたのかっていうことを、僕は積極的に発信すべきだと思います。それを骨身に沁みて分かっているアメリカ国民には、わざわざ言う必要はないけど、日本人はまだまだそれを知らない人が多いと思うから。
――本書の5章で、そのあたりの話に触れていますが、改めていくつかその事例を挙げるなら?
河原:たとえば、この本でも紹介した、『SW』ファンの女の子が「それは男の子が観るものだ」ってクラスの男の子たちにいじめられていたのを、世界中のファンが励ましたっていう話があります。それがきっかけとなって、「ウェア・『SW』・デイ」っていう、『SW』のグッズを身につけて過ごす日が、ファンのあいだで定められました。それは『SW』ファンであることによって肩身の狭い思いをしている子たちに、「『SW』が好きなのは、君たちだけじゃないよ」って励ますために始まった行事なんです。
――そんな日があるんですね。
河原:今年は12月4日の金曜日だったので、残念ながら、もう終わってしまいましたけど。あるいは、これはもう一冊の本に書いたんですけど、脳腫瘍が発覚した『SW』ファンの女の子を励ますために、ピンク色のR2-D2……ケイティっていう彼女の名前をとってR2-KTっていうんですけど、それをファンが実際に作ってあげた話もありました。世界中のファンのネットワークを通じて寄付を募って、R2-D2の製作を専門としているファン集団が、彼女のために実物大のR2-KTを作ってあげたんです。そう、それが、今回の新シリーズにカメオ出演していることが、最近発表されて……。
――すごい! あと、『SW』のコスプレをしている人たちの在り方も、すごく独特ですよね。
河原:そうですね。501stっていう、主に帝国軍のコスプレをしているファン集団をはじめ、世界中にルーカス公認のさまざまなコスプレ団体があります。彼らは、単なる自己満足で、コスプレをしているわけじゃありません。今回も、新作の公開初日には、各地の劇場にずらーっとファンが並ぶでしょうが、彼らはコスプレをして、そこを練り歩くんです。並んでいる人たちを楽しませるために。彼ら自身はその日、映画は観られないんですよ。
――あ、そうですよね。
河原:彼らは後日、観るんです。公開初日は、ファンを楽しませることに専念しているんですよ。もともとは自己満足でやったコスプレが、人々を感動させたり喜ばせたりすることができるってことを、彼らは知っているから。だから、基本的に無償のボランティアですけど、彼らは喜んでやるんです。
――そういったある種の「博愛精神」みたいなものは、いったいどこからきているのでしょう?
河原:そこはやっぱり、ルーク役を演じたマーク・ハミルの「僕たちはみんな家族なんだ」という言葉につきます。さまざまな愛憎も含めて、この38年のあいだにこれだけ大きくなった『SW』が生み出した「絆」こそが、『SW』文化の土台になっているんです。
――そんな映画って、他にはあまりないですよね。
河原:ないですね。そういうところこそ、今の日本に伝えるべきだと僕は思うんです。『SW』は、こんなふうに他の映画と違うんだよ。そして、それはもはやここまで大きなものになっているんだよと。だから、そのへんの話も、今回の本にはちゃんと書いたつもりです。
――作品としての『SW』はもちろん、現象としての『SW』の特殊性というか。
河原:そうです。単なる作品情報とかストーリーを書くなら、雑誌の記事で済む話なんですよ。でも、書籍として残るのであれば、そこには何らかのドラマとか、語るべきストーリーがなければいけないと思っていて。そういうことって、ファン歴が長い人でも、意外と知らなかったりするんです。彼らは、自分が観たい新作の情報は取りにいくけど、『SW』コミュニティとか、『SW』文化が今、世界的にどうなっているかっていうことに関しては、あまり興味がなかったりする。新作の情報とか欲しいグッズとかはチェックするけど、そうじゃない部分には興味がないんです。『SW』でチャリティー活動をしている人たちがいるんですよって言っても、「何それ?」って冷やかな反応をしたり。
――そのあたりの話って、日本における昨今のオタク・コミュニティの動きとも通じるような気がします。かつてのような知識の競い合いではなく、ファン同士が仲良く共存して行く道を積極的に選んでいるというか。
河原:そうかもしれないですね。昔のコミケとかって、もっと殺気立ってましたから(笑)。今は、もっと大らかな感じがするというか。オタクと言われる人の数が増えたのも関係しているのでしょう。『SW』のように、そういったオタク的なものが、何らかの形で人の役に立ったり、あるいは子どもたちの助けになるという、その道筋ができたのは、素晴らしいことだと思います。しかし、それは「こうすべきである」って無理やり作るものではないから、自然発生的に何か良い方向に向かっていったらいいなとは思っています。