『劇場霊』が切り拓くJホラーの新境地ーー不条理性に根ざした恐怖演出を読み解く

『劇場霊』が描く不条理な恐怖

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 この不条理性から生まれるホラー映画の定理となると、やはり根底に小中理論(脚本家・小中千昭が著書『ホラー映画の魅力』で解説した、恐怖を生み出すための表現論)の存在を感じることができよう。そもそも人形は動かないという先入観を逸脱し、それが動くという極めてシンプルな方法論で生み出される恐怖の描き方を始め、多くのホラー映画が多用してきた、単なるサプライズでしかないショッカー描写を一切使わないことで、より基礎的な恐怖描写を追求しているのである。また、クライマックスでの舞台上における襲撃シーンは極めて異様な光景に映り、生きた殺人鬼ではなくあくまでも心霊であるはずの人形が、大勢の人間の前に姿を表すという、もはや情報の統一を超越した画期的な恐怖演出であった。

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 もちろん主人公を演じる島崎遥香のホラークイーンとしての才も存分に楽しめる。中田秀夫監督は前々作『クロユリ団地』でAKB48卒業後の前田敦子を主演に配したが、再びAKB48のメンバーでホラー映画を作ると聞いたときは、少々不安な気持ちもあった。しかし、いざ出来上がった作品を見てみれば、そんな不安など軽く吹き飛ばされるのだ。そもそもAKB48関連のドラマの出演が主で、演技キャリアは浅いものの、グループ内でも努力家と知られている彼女だけあって、台詞読み自体には課題は残るが、普段の冷たい視線と恐怖シーンの表情とのギャップや、クライマックスでの決め台詞には、彼女を推しメンにしているファンでなくとも魅力的に映るであろう。かの大所帯グループの中でも群を抜いて、女優として輝ける素質を持った逸材である。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。

■公開情報
『劇場霊』
2015年11月21日(土)全国ロードショー
監督:中田秀夫 『女優霊』(’96)、『リング』(’98)、『クロユリ団地』(’13)
製作:『劇場霊』製作委員会
脚本:加藤淳也、三宅隆太
出演:島崎遥香、足立梨花、高田里穂、町田啓太、中村育二、小市慢太郎
配給:松竹株式会社
撮影:2014年9月8日~10月15日
公式サイト:www.gekijourei.jp
(C)2015『劇場霊』製作委員会

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