ホームドラマとドキュメンタリーの融合ーー『2030かなたの家族』が描く“変容”とは?

 会社を辞めて夫と離婚し、音信不通となっていた妹の絵美衣は、身寄りのない孤児やシングルマザーといった社会的弱者(劇中では「無敵の人」と表現される)と共に廃校で暮らしていた。そこは、あらゆる弱者が共に生きられる独自のコミュニティで、そこで暮らす子どもたちから絵美衣は、ママと呼ばれていた。煩わしいものとして家族を退け、夫とも離婚した絵美衣がたどり着いたのは社会的弱者による独自の経済圏を持つ疑似家族だった。しかし、そんな共同体も、一人の若者の反発によってあっけなく崩壊する。

 掛が開発に関わった相談相手となるロボットを筆頭に、旧来の家族を埋め合わせる「新しい家族のかたち」が近未来のテクノロジーを通して語られる。しかし、どれも完全ではない。かといって、昔ながらの家族に戻ることもできない。ラストは再び家族が集まり、掛の子ども時代のように花見をするのだが、彼らが戻っていくのは、それぞれの日常だ。だが、本作は家族という概念自体は否定しない。どれだけ自由になっても、人間は家族から離れることができない。しかし、家族の形は時代によって変容していく。テレビ電話で話すだけの夫婦も家族、ロボットも家族。旧来の家族像とは違う多様な姿に変容しながらも、家族という器は続いていく。 

 その姿は、様々なジャンルを吸収してグロテスクに変容していくテレビドラマと、うり二つである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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