物語は終わらないーー『デート』スペシャル版で描き出された“心”とは?
初回のオープニングを彷彿とさせるような、デートの待ち合わせシーン。しかし、そこに現れたのは、意外な人物だった! そんな驚きの展開から一気に時系列を遡り、そのシーンに至るまでの過程をていねいに描いてゆく構成。そして、いきなり始まる主人公たち……藪下依子(杏)と谷口巧(長谷川博己)の、何か根本的にズレているような気がするけど、理屈は通っているように思えなくもない、スピード感溢れる軽快な台詞の応酬。これが『デート』の世界だ! 『デート』が本当に帰って来た! 連続ドラマ放送時からのファンは、オープニングで思わず快哉を叫んだに違いない。スペシャル・ドラマ『デート~恋とはどんなものかしら~2015夏 秘湯』(9月29日、夜9:00~11:18放送)は、こんなふうにスタートした。
連続ドラマの最終回で、大団円を迎えたように思えた主人公たちの「その後の話」が描かれるという今回のスペシャル版。あらかじめ、「今回のテーマは“心”です」と告知されていた本作は、果たしてどのように“心”を描き出してみせたのだろうか? 感情に惑わされることなく、何事も論理的に考えることから、「君は心がない」と言われ続けていた依子。彼女は巧との結婚に向けた準備として、細部まで徹底的に書き込まれた極厚の「結婚契約書」を完成させる。しかし、そこに書かれた通り共同生活を営むことなど、本当に可能なのだろうか? そんな思いから、ひとまず「半同棲」生活をスタートさせてみるも、そこでふたりの「違い」が改めて浮き彫りとなり……それに加えて、ある日ふたりの前に現れた和服姿の美女(芦名星)の存在。やがて、依子はそれまで考えもしなかった、巧の「浮気」を疑うようになるのだった。
というのが、今回の大まかなプロットだ。ある意味「“ファン感謝祭”のようなもの」と事前にキャストが言っていた通り、主演のふたりをはじめ、彼女たちを取り囲む人々――依子の父親(松重豊)と母(和久井映見)、依子に恋心を抱く好青年・鷲尾(中島裕翔/Hey! Say! JUMP)、そして巧の母(風吹ジュン)と巧の幼馴染の兄妹である宗太郎(松尾諭)と佳織(国仲涼子)……出産直前につき、残念ながら声のみの出演となった国仲を除いては、連続ドラマのキャストが勢ぞろいし、そのアンサンブルが織りなす『デート』ならではの愛すべき世界を存分に披露した今回のスペシャル版。冒頭に挙げた導入部の展開から、連続ドラマ同様『デート』マナーに則った構成で小気味よく進められてゆく物語。謎の進化を果たした依子のアヒル口や、相変わらず文豪の名言を台詞の端々に混ぜてくる巧、実は横浜の名所紹介にもなっているロケ地、秀逸なサウンドトラックなど、『デート』の世界全体を愛する者にとっては、実に楽しい時間が久方ぶりに流れてゆく。そうそう、これだよ。
かくして、迎えたクライマックスの舞台は、『こころ』などで知られる文豪・夏目漱石ゆかりの地でもある、伊豆・修善寺の温泉宿。さすがはスペシャル版である。そこに主要キャストが勢ぞろいするなか、すわ刃傷沙汰という派手な修羅場を含むひと騒動があったのち、山奥にあるという“秘湯”を探して歩き出す依子と巧。しかし、いつのまにかふたりは道に迷ってしまい……。そこから始まる、山小屋のシークエンスが、何といっても今回のハイライトだった。「どこで道を間違えたのかしら……」という依子の言葉を受けて、「僕たちを騙したんです。最初から“秘湯”なんてないんだ」とのたまう巧。そこからふたりの会話は、自然と今回の騒動を振り返るような展開に。「浮気」の事実が無かったことを、つまびらかに説明する巧。しかし、依子は食い下がる。「でも、心のなかでは、どうだったんですか?」。さらに、「あなたの心のなかを知りたいんです」とも。それを受けて、心は常に複雑としながらも、「でも、心の真ん中にいるのは、いつも君ですよ」、「心の中心部分をいつも君が占めているんです」と、その気持ちを巧は正直に告白するのだった。