カルピスのように甘酸っぱいーーネガティブ女子×ポジティブ男子の恋物語『弱虫ハムスターは夏の神様の夢を見る』
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人はどのようにして好意を「恋」だと自覚するのか
とにかく、紬も瀬那も純粋で微笑ましいのだ。最初こそ、紬はネガティブで、瀬那はポジティブというわかりやすい構図だったが、人間というのはそんなに単純なものではない。違う個性を持つ2人だからこそ、お互いの視点を共有することで新しい世界が見えてくる。
そして、自分の知らなかった視点を知ることで、相手に嫌な思いをさせてしまっていたらどうしようと恐れるようになる。かと思えば、相手を安心させてあげたいという願いから強さを身につけることも。雨が降ったり雲間が晴れたり。私たちの心にも天気模様がある。一概にネガティブがダメで、ポジティブがいい、という話ではなく、人間にはどちらの面もあって当然なのだと2人の素直なリアクションから気づかされるのだ。
人はどのようにして好意を「恋」だと自覚するのか。紬と瀬那の心の動きを丁寧に描写した本作は、まるでキラッキラッと日の当たった水面が光りを放つように愛しくて眩しい。このまばゆい感覚を青春のきらめきと呼ぶのだろう。読みながら胸がキュッとなるのを感じて、思わず深呼吸した。
リアルな人生の青春時代はもしかしたら1度かもしれないが、物語を通じて私たちの心を満たすキラキラはページをめくるたびに何度だって味わうことができる。今まさに青春のド真ん中にいる人も、これからその季節を迎える人も、かつて目いっぱいに謳歌した人も、もれなくいつでも、どんな場所でも、その感覚を味わえるのが物語の力だ。今年は、ぜひこの爽やかなラブコメを楽しんでから夏本番を迎えてほしい。きっと読み終えた後は、この本を手に取る前よりもキラキラとしたものを見つけられるに違いない。