カルピスのように甘酸っぱいーーネガティブ女子×ポジティブ男子の恋物語『弱虫ハムスターは夏の神様の夢を見る』
夏の日差しを感じながら、今年もキラキラした季節がやってきたなと胸が高鳴る。キンキンに冷えた瓶のサイダー、二度と戻らない夏に挑む高校球児たちの汗、そして勇気を振り絞って誘った相手と見つめる花火……。そんな眩しい季節を、さらに盛り上げていく1冊を紹介したい。6月20日に女性向け文芸レーベル「ことのは文庫」より発売された、『弱虫ハムスターは夏の神様の夢を見る』だ。
著者の織島かのこは、あとがきで「カルピスのCMみたいな、爽やかな夏のラブコメ書きたいな~」と本作を書き始めたときの気持ちを記していた。まさにカルピスの甘酸っぱさにも似た青春感、そして「これこれ、これでいいんだよ。いや、これがいいんだよ」と唸らずにはいられないどこか懐かしく安心する王道感に、「こんなん、なんぼあってもいいですからね」と脳内でハイタッチしたくなった。
こそばゆささえ感じる、無自覚に膨らんでいく二人の好意
物語の舞台は京都。ジリジリと照りつける夏の太陽に照らされる中、中学生の紬(つむぎ)は野球場にいた。その瞳をひきつけたのは、自分の中学校の対戦相手だった瀬那(せな)。胃がキリキリと痛むようなタイミングでマウンドに立った瀬那は、そのピンチを楽しむかのように笑っていた。アガリ症でネガティブガールの紬にとっては信じられない光景だった。
「生まれ変わったらあんな風になりたい」紬にとって、瀬那はその日から「神様」のような存在となった。入学した高校で、偶然にも前後の席に座ることになった紬と瀬那。いつも人の輪の中心にいるポジティブボーイの瀬那とは「住む世界が違う」と遠くから拝むだけ。心の中でひっそりと、その存在に勇気づけられるだけで満足なはずだった。
しかし、そんな紬に大きな転機が訪れる。それは、7月10日に予告された音楽の実技試験。人と話すだけで赤面してしまう紬にとって、人前で歌うなんてとんでもないこと。パニックになった紬は勢い余って、瀬那に「緊張しない秘訣を教えてください」と頼み込んで……。
作中、瀬那が紬のノートを「美しくてわかりやすい」と感想を述べる場面があったが、そう瀬那が感じたように、読み進めながらこの作品そのものが丁寧に書き綴られている紬のノートのように感じた。1行ごとに、情景が鮮明に描かれていく。そして、紬と瀬那のそれぞれの視点で語られることで、感情の動きをつぶさに感じ取れるのも迷いなく読み進められる。
最初は「あんな風になりたい」という憧れや、「助けになってあげたい」という応援の気持ちから動き始めた2人の関係。紬のアガリ症を克服するために、まずは緊張せずに話をするところから、心の距離を近づけていく。お互いに対する好意が無自覚に膨らんでいくのを感じるたびに、こちらの口角が上がるのを感じた。