『ダンダダン』『呪術廻戦』も実は……? “ネット怪談”の遺伝子を受け継ぐホラー漫画が大流行

ネット怪談をコメディに変える二次創作的ホラー漫画も

 『‎サマータイムレンダ』の田中靖規が3月から連載開始した最新作『ゴーストフィクサーズ』も、ホラーファンとしては見逃せない。同作が色濃く影響を受けているのは、アメリカ発のネット怪談「SCP財団」だ。

 「SCP財団」とは怪異を確保(Secure)・収容(Contain)・保護(Protect)することを目的としている架空の財団の名称で、この組織にまつわる逸話を有志が書き込んでいくコミュニティサイトを指す名前でもある。『ゴーストフィクサーズ』は直接的に名前を出してはいないものの、明らかに「SCP財団」の世界観や設定と通じる部分が多い。

  同作は「校正機構」という組織に所属する校正官(フィクサー)が、「GHOST」と呼ばれる怪異を確保・収容していく設定。「GHOST」はそれぞれ現実を改変する能力をもっており、校正官はその謎を解くことによってトラブルを解決していく……。こうして「SCP財団」の醍醐味と言える要素を受け継いだ上で、オリジナリティのある物語を生み出しているのが同作の面白さだ。

(c)芥見下々/集英社

  ちなみに、あの大ヒット漫画『呪術廻戦』においてもネット怪談の影響は見てとれる。作中最大の敵・両面宿儺は、『日本書紀』にも登場する由緒正しい存在なのだが、「洒落怖」にも「リョウメンスクナ」という有名な話があった。

  しかもこのネット怪談は、“木箱に封印された呪物”というモチーフの物語なので、『呪術廻戦』の宿儺と通じているように見える。実際に作者・芥見下々は2021年に『漫道コバヤシ』(フジテレビONE)に出演した際、自分の世代では「両面宿儺」のオカルト話がメジャーだったと語っていたが、そこで暗に想定されているのはまず間違いなく「洒落怖」のことだろう。

  そのほか変わり種の作品として、ともつか治臣が『カドコミ』で連載中の『令和のダラさん』も紹介しておきたい。同作に登場する下半身が蛇、上半身が巫女の妖怪「ダラさん」の本名は、「姦姦蛇螺」(かんかんだら)。これは「洒落怖」の怪談に登場する怪異の名前で、生贄として蛇に捧げられた女性の怨念という設定も一致している。

  ただし、本家「姦姦蛇螺」の物語は本格的なホラーだが、『令和のダラさん』はダラさんが自分を全く恐れない小学生に振り回される姿が笑いを誘うコメディ作品だ。『リング』の貞子や『呪怨』の伽椰子など、ホラー作品は不思議とコミカルな二次創作との親和性が高いものが多いが、そんな想像力を上手く活かした作品と言えるだろう。

  同系統の漫画として、『くらげバンチ』でネブクロが連載している『訳アリ心霊マンション』も挙げられる。同作は事故物件の大家が心霊事件を解決し、その霊を自分のマンションに住まわせていくホラー風オムニバスコメディだ。

  同作には「飛び降りて亡くなった人の霊が部屋を覗き込んでくる」「祠を壊した罰当たり者に、恐ろしい存在が天罰をくだす」といった、ネット怪談で人気の筋書きが頻繁に登場。そして各話の前半では本格的な恐怖演出が盛り込まれるものの、後半で一気にコメディ化してしまう。そしてそのギャップこそが、大きな魅力を生み出している。

  こうしたコメディ作品が出てきたことについては、“二次創作”が受け入れられるほどネット怪談が広く浸透したことの結果と言えるかもしれない。サンプリングにしろパロディにしろ、今後もその影響はますます増していくものと思われるので、どんな作品が新たに生み出されるのか楽しみだ。

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