お値段、なんと27万5000円の新刊登場──定価が“高額すぎる本”、他にどんなものがある?

定価が“高額すぎる本”、どんなものがある?

 ■高額な新刊本が増えている

  2023年に岩波書店から刊行された『関孝和全集』が話題になっている。全3巻、4064ページという大ボリュームで、上製函入で輸送ケース付き。江戸時代に普及した数学“和算”を大成した関孝和の全貌を明らかにしている。その価格も衝撃的で、なんと27万5000円もする。1冊当たり約9万1666円だが、分売は不可となっている。1990年代以降に関孝和の新史料が相次いで発掘され、研究が進展したことにより出版に至ったものだ。

  バブルの時期には各社から高価な学術書や図鑑などが出版されたが、2000年以降は出版不況の影響でこうした編集に手間も時間もかかる本の出版は難しくなっている。さらに、学術書の顧客であった大学や図書館も予算不足に陥っており、買い手を探すのにも苦労していると聞く。そんな中で出版に踏み切った岩波書店は偉業と言っていいだろう。

  かつて、「タモリ倶楽部」で高価な本のランキングをした際、1位になったのは中央公論社から1991年に発行された、フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニの『建築論』で、40万5825円という凄まじい値段であった。では、現在も“新刊”で手に入る“紙”の“高価な本”はどのようなものがあるだろうか。

  その筆頭格といえるのが、大修館書店の『大漢和辞典』である。約5字を収録する日本最大の漢和辞典であり、著者の諸橋轍次は文化勲章を受章している。気になるお値段だが、15巻セットで26万4000円だ。図書館でもみたことがある人は多いと思うが、もちろん一般読者も手にできるし、歴史的な名著が在庫されているのは素晴らしい。日本最大の国語辞典は小学館の『日本国語大辞典 第2版』である。全13巻+別巻の合計14冊セットで、お値段は23万1000円だ。

 一昔前は、家の本棚に並べられることも多かった美術全集はどうだろう。2016年に小学館から刊行された『日本美術全集』は、最新の研究成果を盛り込んだ美術全集である。こちらは全20巻セットで33万円だ。紀伊國屋書店の通販ページでも販売されているが、「出版社からのお取り寄せとなります。入荷までにおよそ1~3週間程度かかります」「商品によっては、品切れ等で入手できない場合がございます」と注意書きがあり、在庫が希少な本となっているようだ。

 2023年に放送されて話題になったNHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデルになったのが、植物学者の牧野富太郎だ。牧野は植物図鑑の出版に生涯をかけて取り組んだが、北隆館より2012年から刊行開始された『APG原色牧野植物大図鑑』は、最新の分類体系に基づいた植物図鑑で、1巻が3万3000円、2巻が4万1800円である。

 医学書などでは10万円超の本が数多くある。医学書専門のオンライン書店「メテオ・メディカルブックセンター」の通販ページで、“在庫あり”となっている本をいくつかピックアップしてみると、丸善出版の『ストレス百科事典』は5冊セットで22万円、同じく丸善出版の『生命倫理百科事典』は5巻セットで22万円である。1冊当たりでは、シーエムシー出版の『ジェネリック医薬品合成マニュアル2012』が33万円と、飛びぬけて高価になっている。

 近年、大手出版社からは、趣味性の高い分野では高価な本が相次いで出版されている。小学館からは2020年に『名刀大全』が3万8500円で、2022年に『日本鉄道大地図館』が3万9600円で刊行されている。学者などが扱う専門書とは異なる、マニアックな一般層向けの本では5万円くらいまでが現実的な価格なのだろうか。こうした本はその道の熱烈なファンが買い求めるため、本の体裁から印刷までとことんこだわった作りで、一種の紙の本の到達点ともいえる仕様になっている。

 今や多くの人が電子書籍を買い求める時代であり、10年後には紙の本の市場規模は大幅に縮小しているともいわれる。そんな中で紙の本が生き残るためには、とことん紙質にこだわり、印刷にも図版の発色にもこだわった、一生愛蔵していたくなるものを出版する必要があるだろう。そう考えると、まだまだ潜在的な需要があるジャンルは多いようにも思える。今年はどんな“高価な本”が出版され、我々を驚かせてくれるだろうか。

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