「スピン/spin」尾形龍太郎 編集長インタビュー「書き手のプラットフォームのような媒体を目指す」

雑誌自体が、忙しない日常にふと挟まる栞であるといい

――各社のPR誌を意識したという話がありましたけど、その種の媒体でウェブへ移行した例も多い。ウェブと紙の関係をどうとらえていますか。

尾形:僕は小説はウェブで読みませんが、漫画はけっこう読んでいます。ただ、ウェブは、ある作家を目指して読んだ時、横に並んでいるものまでなかなかクリックしてもらうのは難しい気がしています(偏見かもしれませんが)。雑誌や新聞は目的の記事を読みながらも、横にある名前や文章が視界に入ってきますよね。そしてその記事にちょっとでも興味があったら読むじゃないですか。「スピン/spin」の表紙に掲載者の名前をあいうえお順・同級数(同じ大きさ)で載せているのも、たとえば創刊号なら皆川博子さんと斉藤壮馬さんの名があって、片方のファンがもう片方に触れるとか、そういう面白さが雑誌にはある。そこはまだ戦える部分かなという気はします。

 また、表紙に「ことば」を掲載することしたのは、机の上に雑誌がモノとして置いてあったら、自然と目に入りますよね。つまり雑誌自体が、忙しない日常にふと挟まる栞であるといいな、と思ったんです。最果タヒさんが以前Twitter(X)で、「街や日常のシーンに突然詩が現れるとき、不意に出会うその言葉は、より生々しく読む人の中に流れ込むのではないかと思います。」と書かれていたことを目にして、その意識もあったのだと思います。

 ちなみに「スピン/spin」はWEBページもあります。本誌で連載中の最果タヒさんの「ときには恋への招待状――詩人からさまざまな方へ、宝塚公演へのおさそいの記録。」のWEB版を公開するなど、少しずつ充実させて行きたいと思っているので、ぜひご注目いただければと思います。

――表紙の「ことば」は、尾崎世界観氏、町田康氏など歌詞や詩といった短い「ことば」のプロばかりでなく、中村文則氏も書いている。小説家の場合、プレッシャーがあるかも。

尾形:いえいえ(笑)。皆さん「ことば」のプロであられるので、毎回、どんな「ことば」をいただけるか楽しみでなりません。今後は、もっと様々なジャンルの表現者の「ことば」を届けたいと思っています。

 話は変わりますが、プレッシャーでいえば、5号で大久保明子さんが『ハンチバック』の装幀秘話を書いた「本の話」という企画は毎回デザイナーの方にお願いしているんですが、みんな違った形式で書いてきているんです。なんか見えないライバル意識みたいなものが、活字に出ている気がします(笑)。

――雑誌の場合、誰かと並ぶと見え方が変わることもありますから。

尾形:やはり意識しますよね。並び順でいえば、「スピン/spin」は表紙の執筆者の名前だけでなく、目次も掲載作を全部同じ大きさの文字にしているんです。実は「文藝」の時も同じことをやっていて、SN Sで「編集権を放棄していると」厳しい意見もあった。雑誌って、「今号の注目作品、注目特集はこれ!」って、表紙や目次で見せていくものですから。でも僕は、どの作品も同列に、あまり前情報なく、読者に届けたいという気持ちがあったんです。

――「スピン/spin」に関する読者や書店の反応で印象に残っていることは。

尾形:「初めて文芸誌を定期購読した」という方々が多くいたのが印象的でした。文芸誌とうたっていないながらも、やはり読者には文芸誌に見えているようですね。あと、創刊時に、思いのほか、書店のSNSの反響が大きかったのが嬉しかったです。

――330円という定価も安い。

尾形:値段についての読者の反応も印象的でした。正直、もう少し高くてもいいと思ったんですが、月刊のPR誌って1冊が100円や150円でしょう。それに対して「スピン/spin」は季刊ですから、3ヵ月分として300円だよねというのが、営業部にあったようです。実際、その値段のおかげで、ふだん文芸誌を手にとらない人が読むきっかけになっているのなら、嬉しいですね。

――いわゆる5大文芸誌の規模ではない、こじんまりした雑誌という意味では、最近だと佐々木敦氏が編集長の「ことばと」など何誌か出ていますが、それらは意識していますか。

尾形:もちろんです。「ことばと」(書肆侃侃房)の特集や新人賞は注目していますし、双子のライオン堂の「しししし」にも刺激を受けています。ミシマ社の「ちゃぶ台」はページをめくりながら、内容はもちろん、なんて大変な台割を切っているのだろうと、ちょっと唖然とします(笑)。

 商業誌に限らず、ここ最近、いわゆる同人誌(個人雑誌/ZINE)が注目されていますが、「スピン/spin」創刊準備時にはずいぶん手にしました。それぞれ作り手の熱意が溢れていて面白いのですが、僕にはそういう趣味性はないし、雑誌の編集長をやっていましたけど、カルチャー誌の編集者ではなく、ただただ小説が好きな編集者なんです。サブカルや時代を意識はしますけど、むしろそちら側に寄らないものにしたい。棲み分けとしても、ある意味ストイックな方がいいのかなという気がしています。

――これまで5号を刊行したわけですが、今後はどのように展開していくんですか。

尾形:悩んでいます。同じことをやっていても、読者はもちろん、自分自身もたぶん飽きてくる。雑誌内で変化はつけていきたいと思っているのと同時に、別案としては、「スピン/spin」の「スピンオフ」を作りたいな、とは思っています。「スピン/spin」はオールジャンルなわけですが、たとえばそれは、ジャンルで区切って編集してもいいかもしれません。

 2026年6月に「スピン/spin」は完結します。同年は河出書房140周年なので、その前後にこの雑誌から生まれた単行本を10冊から15冊くらい出したい。連載小説がうまく着地してくれればと思っています。僕自身が当たりたい書き手もたくさんいますが、一方で、できれば僕が知らない作家がもっと載る雑誌にしたいですね。僕は最低限のコントロールだけして、社内の編集者が「この作家だけは、ぜひ、このチャンスに仕事をしたいんだ」という作品がどんどん載る「場」となれば、さらに面白い雑誌になるんじゃないでしょうか。さらにジャンルを超えた書き手のプラットフォームのような媒体を目指したく思います。ご期待ください。

■「スピン/spin」特設サイト
https://spin.kawade.co.jp/

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