【漫画】18歳で500万借金してでも欲しかったものとは? 実体験をもとにしたSNS漫画が話題

ーー主人公の切なる思いを感じた作品でした。創作したきっかけを教えてください。

中村環(以下、中村):本作は「わたしの一番高い買い物」をテーマとする漫画のコンテストに応募するため創作した作品です。500万円の奨学金を借りて新聞社の奨学金担当の男性に驚かれたエピソードは私の体験に基づいています。

ーー本作が実話に基づいていることに驚きました。

中村:お金を借りることは学校へ行くためでもあったのですが、自分を奮い立たせるための手段という意味もありました。当時の私は真面目そうに振る舞っていたのですが成績はあまり良くなくて、実は怠け者だと周りにバレてしまうことに怖さを感じていました。

 また進学のため実家を離れる際、漢字の“人”の短い棒のように、なにか自分を支えるものを用意しないとちゃんとした人であることができないのでは、という危機感を抱いていました。この奨学金を借りた学生の多くは社宅の中で他の学生や社員さんと共同生活をすることになるのですが、そういう周りの目がある環境なら、大学をサボらずに通い切ることができるのではないかと思ったんです。

ーー面接中にセーターの毛玉を取るシーンを描こうと思った理由は?

中村:こちらはページ全体を見たとき、画の変化を出すために描いたシーンなのですが、怠惰な人間ということを言葉ではなく絵で端的に表すことを考えたときに毛玉がいいんじゃないかと思ったんです。

 例えば朝に起きられないことや宿題をやらないといった様子を描くことでも怠惰な人間を表現できるかと思いますが、どうしても情報量が多くなってしまいコマ数も増えてしまいます。そこで思い出したのが、学生時代にセーターの毛玉を取らずに登校してしまう自分に恥ずかしさを感じていたことでした。

ーーなぜ少女にとってのバッドエンドが“親に疎まれて生きる”ことだった?

中村:本作の主人公はまだ高校生なので、自分の幸せが両親に気に入られることくらいしか想像できておらず、会社で認められるなどといった幸せをイメージできていないのだと思います。

 また、私が高校生の頃、自分の将来を想像したとき、50歳になってもうまく働けずに子ども部屋で引きこもっている様子が目に浮かびました。そしてそんな私は両親から疎まれているだろうなと。本作の主人公も高校生の時点で自分が就職することや実家を出て自立することが難しいと感じていたんだと思います。両親の脛をかじってでしか生きれないという予想がついており、だから両親に疎まれて生きることがバッドエンドであったのだと思います。

ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。

中村:美術大学を卒業したあとデザイン系の会社に就職したのですが、入社して半年くらいから具合が悪くなり、300mも歩けなくなってしまうほど体調を崩してしまいました。検査を受けると4つほど心身の不調が見つかり、東京にあった会社を休職、退職し地元へ戻りました。不調の原因が会社でのストレスや自身の生来の不器用さだったこともあり、社会に戻るのがすごく難しく思えて、何かで自信を回復しないと社会復帰は難しいと感じていました。

 東京にいた頃から実家の両親から「武論尊100時間漫画塾」の塾生募集チラシが送られてきていました。『北斗の拳』の原作者である武論尊先生が塾長を務める塾で、先生の故郷である佐久市で開かれているものです。私は自信を回復するために、実家へ戻ったタイミングで、2年間ほど漫画塾に通いました。そこから本気で漫画家を目指そうと思い漫画創作コミュニティ「コルクラボマンガ専科」に応募し、それを期にSNSで漫画を本格的に投稿するようになりました。現在はSNSで私のことを知ってくださった企業さんからプロモーション用の漫画制作をご依頼いただき、ご飯を食べています。

ーー漫画を描き続けるための秘訣は?

中村:たった数年ですが漫画家志望者をしてみて気づいたのは、漫画を描き続けるには「漫画を描く力をつける」ことと「漫画家になることを諦めない」ことの2つが重要だと思っています。そのなかで後者はすごく難しいことで、漫画家になれないかもしれないという不安を抱えながら漫画を制作していくのはとても大変です。

 そんな不安を和らげるために必要なのは仲間の存在だと思っています。「武論尊100時間漫画塾」に通っているときにも塾生同士で会話をしたり、頑張っている姿を見たりすると元気をもらえて、講義内容もためになるのですが、何より仲間が集まる場所へ通うことに大きな価値を感じていました。

ーー今後の目標を教えてください。

中村:現在は商業作家を目指していますが、たとえその目標が叶わなくてもSNSで漫画を投稿することは続けていきたいと思います。ありがたいことに友人やSNSのフォロワーさんなど、漫画を読みたいと言ってくださる方がいらっしゃるので、その方々のために漫画を描いていきたいです。

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