明治時代を舞台に描かれる、海賊と海軍の衝突ーー薬丸岳が新境地を拓いた『蒼色の大地』

 また、灯と鈴が互いを想っていることも緊張感を醸成している。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の昔から、周囲が許さぬ人間同士の恋愛は悲劇で終わりがちなものだが、彼らの場合はどうなるのか……というスリルが結末に向けて高まってゆく。

 他の登場人物たちも明治という時代を背景に、くっきりした輪郭を持って読者に迫ってくる。蒼い目の人々が暮らす鬼仙島という伝奇的な舞台の描写も堂に入っており、薬丸岳はこういう世界も書けるのかと瞠目させられた。

 著者の今までの作品群とはあまり共通性を感じない作風ながら、完成度の高い一大エンタテインメントに仕上がっている。普段自分が書いているものとは違うテーマを与えられた作家が、それまで見せなかった秘密兵器を披露した、という印象の一冊だ。

■書籍情報
『蒼色の大地』(中公文庫)
薬丸 岳 著
発売:2022年11月22日
価格:¥924
出版社:中央公論新社
螺旋プロジェクト 特設サイト:https://www.chuko.co.jp/special/rasen/

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