『確執と信念』書評 嫉妬渦巻くプロ野球の世界 嫌われ裏切られても己を貫いた野武士たち
スジを通せば生きにくくなった令和の世の中で、ゴリゴリに我を通し、「スジ=正論」と本人が言い張る言い分を、著者は苦い顔で見守るわけじゃなくむしろ嬉々として一緒になって刃を振りまわす、「スパイ疑惑」に「サイン盗み」「選手の技量」忖度なしに切り捲る様は、ある意味痛快ですらある。
タイミングよく昔のドキュメンタリーが録画されていた。今から20年以上前に関西地区で放送された「帰らざる黄金の日々~南海ホークスへの鎮魂歌」
現在のなんばパークスはかつて南海ホークスがホームグラウンドにしていた大阪球場があった場所にある。その一角に南海ホークス栄光の歴史を掲示したパネル展がある。そこには日本一を成し遂げた鶴岡一人監督や日本シリーズ4連投の大エース杉浦忠投手。もちろんホームラン王の門田博光も含んだ南海ホークスを支えた錚々たるメンバーが称えられる中、練習生から叩き上げ、三冠王になり、選手兼任監督にまで上り詰めた野村克也の姿はそこに飾られることはなかった。
江夏豊が語る野球への熱い想い。江本孟紀の野放図に語る無頓着な断言。古葉竹識とのトレードで広島に出された国貞による不用意な内部リーク。数々の証言者たちのラストに当時社会人野球シダックスの監督だった野村克也の証言が入る。
「なぜ野村さんはパネル展に飾られないのか?」
不機嫌を煮詰めた顔で吐き出す。
「球団に逐われた自分がのうのうと(この場所に)飾られたくはない」
妬み
嫉み
恨み
嫉妬渦巻くプロの世界。
「確執と信念」では野村への愛憎を語った門田だが、ドキュメンタリーでは野村が吐き出す支配した側の恨み節を堪能できる。そう、シダックス時代の不遇にいたからこその恨み節が画面からドロドロとコールタールのように絡みつく。
大阪球場最後の試合で監督・杉浦忠が言った「(球団移転で福岡に)行ってきます」
今でもファンは「おかえりなさい」を伝えられずにいる。
信念を貫き通せばいずれ確執が生まれる。その確執を糧とするかカテェと忌むかがレジェンドと凡人の差だと思うわけです。こんな人たちが同じ会社にいたら・・・嫌だなぁ、それが上司でも同僚でも。だが、その存在が光り輝いているのは事実だ。
レジェンドにはなれないしなりたくもない。でも嫌いにはなれない。そう思わせる1冊でした。