もしも忍者が現代のOLになったら……? 人気シリーズ『忍者だけど、OLやっています』のリアリティ

 「忍者」という謎めいた響きは、今もなお人々の胸をときめかせる。黒装束に身を包み、手裏剣を投げ、煙とともに姿を消す……。多くの人が忍者と聞いて思い浮かべるのは、このようなイメージではないだろうか。

 だが、橘ももによる『忍者だけど、OLやってます』(双葉文庫)シリーズは、こうしたポピュラーな忍者像をよい意味で裏切ってくれる。現代社会の中に忍者がまぎれ、暗躍していたら、こんな感じではないだろうか。そう思わせるリアリティに満ち溢れた描写で、現代に生きる忍者たちの姿や仕事ぶりを描いているのだ。

 作家として長いキャリアを持ち、『空挺ドラゴンズ』や『さんかく窓の外側は夜』などのノベライズも多数手がけ、ライター(立花もも名義)としても活躍中の橘もも。そんな橘の代表作として知られる『忍者だけど、OLやっています』は、双葉文庫で展開中の人気作で、3月に最新刊となる第4巻が発売された。クライマックスを迎えた『忍者OL』シリーズの魅力と読みどころを紹介しながら、最新刊についても見ていきたい。

 物語の主人公は、和泉鉱業エネルギー(通称IME)で働くOLの望月陽菜子。彼女は四百年以上も続く忍者の里の頭領娘として生まれたが、剣術や体術も人並み以下という落ちこぼれで、唯一褒められるのは変身術だけ。陽菜子は自らの出自や封建的な里を嫌悪し続け、大学卒業を機に家族と故郷を捨てる。だが「抜け忍」として7年間ひっそりと暮らしてきた彼女の平穏な日々は、同期で上司のぼんくらな坊っちゃんこと社長令息・和泉沢創が持ち込んだトラブルによって一変した。

 創が紛失したのは、新規油田の契約にまつわる重要書類だった。泣きつかれた陽菜子は、封印していた変身術に再び手を出し、書類を盗んだIMEのライバル会社の関係者と接触して見事書類を奪還する。だがこの事件の裏では会社の合併話が秘密裏に進められており、それに気づいた陽菜子はさらなる厄介事に巻き込まれていく。そのうえ禁を破って忍術を使ったことが、里の関係者に知られてしまう。次期頭領候補というエリート忍者で、外務省勤務の元許嫁・向坂惣真が7年ぶりに彼女の前に現れ、二度と忍術を使うなと警告する。陽菜子は葛藤するが、それでも自分の守りたいもののために、忍術を駆使して困難に立ち向かっていくのだった――。

 『忍者OL』シリーズはお仕事小説・企業小説としての一面もあり、ビジネスにまつわるさまざまなトラブルが登場する。合併や買収をめぐるエピソードが丁寧に描かれており、こうした問題の裏で忍者たちも暗躍し、さまざまな頭脳戦や駆け引きが繰り広げられていくのだ。シリーズが進むにつれてアクション描写も増えていくが、いわゆる忍者らしい派手な忍術は登場せず、現実的な小技を駆使したバトルが展開する。忍者という古典的なモチーフを、現代社会にあわせてアップデートしたところに、本作の独自性と面白さがある。

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